法規制、規格(1)

こんにちは。
今回は「法規制、規格」の説明です。身の回りには法令で定められた規制や製品(物)に要求される規格等実に様々な守るべき約束事が多数存在します。特に製品を開発設計、製造、販売する立場のメーカや技術者は自社製品に要求される法規制、規格に則って生産、販売することが義務付けられています。そのため技術者は製品に対する多くの法規制、要求規格を理解して開発設計しなければなりません。近年、環境問題やSGDsからRoHSを始めとして、あらゆる製品に対する規制・要求も厳しくなり、製造メーカや技術者には多難な時代かもしれません。しかし新しい技術開発で乗り越えて行かなければ生き残れません。その為にも、技術者は専門の担当者を頼るのではなく技術者自身が理解したうえで製品設計を行ってほしいと思います。

筆者が携わってきた製品でも法規制や要求規格は数多く、使用する部品まで展開すれば驚くほどの規格、基準で作られているのが解ります。法規の数、JISxxの数、IECxxの数、〇〇規格の数、各国の法規制、規格を考えれば当然と言えば当然ですね。技術者はしっかり理解して取組んでください。
この連載では筆者が関わってきた製品に関わる「法規制、規格」の概要と詳細を解説して行きたいと思います。ただ、防爆電気機器のように設計要素に直接かかわる項目に関しては、それぞれの連載の中で主に解説して行きます。

計量器(質量計)の法令、規制、規格

計量器(質量計)関連を例に考えてみても、国内は計量法(政省令)、JIS、電気用品安全法、労働安全衛生法(政省令)(防爆)、etc.。計量器(質量計)も電気機器であり、防爆機器であれば関連法規も関係します。輸出する場合は輸出先の規制・規格に対応するのは当然ですが、外為法(政省令)も関係しています。計量法の規制を受けない工業用の計量器も多数有りますが、電気機器や防爆機器としての規制や規格は必要になります。実際の製品設計は規格・技術基準に基づいて行うわけですが、根拠をしっかり把握しておきましょう。
Webで検索(e-Gov法令検索)すると特定計量器に関して「計量法」と「政省令」で12あるのがわかります。すべて把握する必要はありませんが、質量計に携わる技術者は、「計量法」、「計量法施行令」、「計量法施行規則」等は一度目を通しておくと良いでしょう。法令の対象はすべての特定計量器ですが、設計する特定計量器に応じた項目、内容だけで十分です。法令関係は範囲が広いのでFAQ方式で都度参照すると良いと思います。

計量器(質量計)関係のJIS規格

計量器(質量計)の技術的な基準はJIS規格に規定されています。対象となる規格を熟読して設計する必要があります。今回から非自動はかりの「JIS B 7611-2」を中心に非自動はかりを設計するうえで重要な内容を解説します。計量法(質量計部分)には基本的な項目もあり、これは決められた法規制なので確認するだけですが順次紹介します。参考として質量計関連のJIS規格№を文末に載せておきます。
非自動はかりのJIS B 7611には、下記のように-1,-2,-3があります。「-1」が所謂JISはかり、「-2」が特定計量器(非自動はかり)、「-3」が特定計量器(分銅及びおもり)になります。

JIS B 7611-1:2005 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第1部:一般計量器
JIS B 7611-2:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第2部:取引又は証明用
JIS B 7611-3:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第3部:分銅及びおもり―取引又は証明用

版数(年度)は最新版を確認して使用してください。「-1」が一般計量器となっていますが、JISマーク制度の規制を受ける非自動はかりで、計量法の規制を受けない工業用の「電子はかり、電子天びん」等を示しているわけではありません。”所謂JISはかり“と書きましたが、現在継続して生産、市場投入しているメーカは無いと思われます。

筆者は「所謂JISはかり」の国内認定第一号の取得、生産に携わりましたが、残念ながら結果としては市場に受け入れられませんでした。他メーカも市場投入していません。市場に受け入れられなかった要因はいろいろ考えられますが「-2」の「取引又は証明用」の非自動はかりとの違いがあったにもかかわらず、市場が求める製品要求に答えられなかったJISマーク制度の一般計量器であったと考えられます。検定、定期検査は必要ありませんが性能維持の確認のため校正や調整は定期的に必要になります。最新版の年度を見てもわかるように、「-1」は初版の2005年から改版されていません。「-2」はもとになっている「OIML R76」の改正や国際規格への対応で改版を繰り返しました。
JIS規格の見直しは5年毎に行うようになっていますが、市場の変化や技術革新によって必要に応じて改版されて行きます。「-1」は15年間も改版されていません、つまり必要性が無いと言うことでしょう。JISマーク制度が活用出来る施策、市場が立ち上がれば良いのですが。

取引又は証明用非自動はかり「JIS B 7611-2」の主な項目

技術者は内容を理解しなければならないのですが、主な項目だけ挙げておきます。設計する製品に合わせて十分読み込んで理解してください。「製品品質」のみならず「設計品質」の確認、維持のためにチェックシートが多用されていますが、規格対応の確認のためにも上手に利用して設計品質の向上を目指しましょう、技術力の向上にもつながります。
JIS B 7611-2:2015は「序文」と「1 適用範囲」を見ればわかるように、「OIML R76-1」を基に作られています。しかし全く同じではなく「修正」や「追加」があります。例えば国内は目量(e)0.01g以上の規定ですが、OIMLではeが0.001g以上になっています。また、要求レベルをOIMLより低く選択できる項目もあります。しかし、時代とともに要求レベルは高くなる一方ですので、技術者はより高い要求レベルをクリアできるように設計するようにしましょう。

「3 用語及び定義」
機能や動作に関係する部分があるので、各要件と実機(非自動はかり)とを照らし合わせて確認すると良いでしょう。また、資料を作成したり機能・動作を確定するのに用語は重要ですので、定義に沿った表現を行うようにしてください。

「4.1 計量単位」
計量単位は「t,kg,g,mg」のみで、「特殊の計量」に「ct,mom,oz」の単位が使えます。

「5 計量要件」
精度等級は「表6-精度等級の分類」のようになりますが、設計仕様を決める場合には各精度等級に要求される条件(別項)と顧客要求仕様を吟味し十分検討を行ってください。
表6を見ると、目量(e)や目量の数(n)が重複している精度等級があります。どの等級にするかは顧客要求と機器の性能、製品戦略等に合わせて検討するわけですが、顧客メリットを第一優先にして製品仕様を決定するようにしてください。

例えば、目量(e)=0.1g、目量の数(n)=6000(ひょう量600g)の場合、2級と3級が該当しますが最小測定量を見ると、3級=20e、2級=50eで3級が少なく(使用できる範囲が広い)なっておりユーザとってメリットになります。その他にも温度範囲が-10℃~+40℃で保証されていれば差が出ませんが、3級は30℃、2級は15℃の制限をメーカ側で選択できるので、温度範囲に差があればユーザにとってはより温度範囲が広い3級の製品にメリットがあります。また、何級であろうと定期検査で落検するような性能ではよくありません。十分余裕を持ち長期安定性に優れた製品を設計することが重要です。その他もありますが市場(顧客)要求を十分把握して仕様を決めて行きます。

[5.5.1 検定公差]
検定公差は表10のようになります。
使用公差は検定公差の2倍です。「検定」は「付属書JA」に、「使用中検査」は「付属書JB」に詳細があります。検定や使用中検査は個々の機器に対して行う検定・検査です。型式承認を取得するための性能はJIS B 7611-2で要求される内容をすべてクリアする必要がありますので、技術者は充分内容を把握して設計開発を行ってください。

[5.9.2 温度]
-10℃~+40℃の温度範囲で使用(認証取得)できるなら、表記する必要が無いので大変性能が良い計量器と言えるでしょう。しかし性能が高くなると性能維持が難しくなるので下記のように精度等級によって最高温度と最低温度との差を選択できるようになっています。

− 精度等級1級のはかりでは,5 ℃
− 精度等級2級のはかりでは,15 ℃
− 精度等級3級及び精度等級4級のはかりでは,30 ℃

例えば「+5℃~+40℃」(3級)、「+15℃~+35℃」(2級)、「+20℃~+30℃」(1級)の様に製造者が規定できます。

[5.9.3 電源]
ACアダプターを使用して本体がDCで動作している機器は注意しましょう。機器のDC電圧の動作で計量性能維持を求められます。DCの最小動作電圧に注意します。

[5.9.4 時間]
[5.9.4.1 クリープ]、[5.9.4.2 零点復帰]は「付属書A:非自動はかりの試験手順」と合わせて読んでおくと良いでしょう。

5.10項以降やパスした項目は次回以降順次解説して行きます。法令や規定はただ読んだけではなかなか理解が進みません。具体的な製品、案件、事例等を考えながら読み進めると理解が早いと思います。また確認のため何度も読み返すことをお勧めします。
特に専門用語は定義(範囲)を理解し拡大解釈や間違った解釈をしないことが重要です。技術者にとって、「その規定・規格ってどうなのかな?疑問だなあ・・・」と思う箇所やお堅い行政の文言は苦手の部分もあると思います。筆者も「その規定、規格は何のため?誰のため(だれの都合)?」と思うような内容に疑問を持ったことが何度もあります。過度な規制、保護は必要無いと思いますが、顧客だけでなく環境(生活、生物、地球、宇宙?)のためにも守るべきものを守り、解決すべき課題は技術(革新)で解決して行きたいものです。ひとつひとつ地道に確認しながら理解して行きましょう。

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参考文献

質量計関連のJIS規格(2020年/12月現在)
JIS B 7601:1983 上皿天びんTrip balances
JIS B 7603:2019 ホッパースケールHopper weighers
JIS B 7604-1:2019 充填用自動はかり―第1部:計量要件及び技術要件Automatic gravimetric filling instruments — Part 1: Metrological and technical requirements
JIS B 7604-2:2017 充填用自動はかり―第2部:試験方法Automatic gravimetric filling instruments — Part 2: Tests
JIS B 7604-2:2017/AMENDMENT 1:2019 充填用自動はかり―第2部:試験方法(追補1)Automatic gravimetric filling instruments — Part 2: Tests (Amendment 1)
JIS B 7606-1:2019 コンベヤスケール―第1部:計量要件及び技術要件Belt weighers — Part 1: Metrological and technical requirements
JIS B 7606-2:2019 コンベヤスケール―第2部:試験方法Belt weighers — Part 2: Tests procedures
JIS B 7607:2018 自動捕捉式はかりAutomatic catchweighing instruments
JIS B 7609:2008 分銅Weights
JIS B 7611-1:2005 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第1部:一般計量器Nonautomatic weighing instruments — Metrological and technical requirements and Tests — Part 1: General measuring instruments
JIS B 7611-2:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第2部:取引又は証明用Non-automatic weighing instruments — Metrological and technical requirements and tests — Part 2: Measuring instruments used in transaction or certification
JIS B 7611-3:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第3部:分銅及びおもり―取引又は証明用Non-automatic weighing instruments — Metrological and technical requirements and tests — Part 3: Weights and poises used in transaction or certification
JIS B 7612-1:2008 質量計用ロードセル―第1部:アナログロードセルLoad Cells for Weighing Instruments — Part 1: Analog Load Cells
JIS B 7612-2:2008 質量計用ロードセル―第2部:デジタルロードセルLoad Cells for Weighing Instruments — Part 2: Digital Load Cells
JIS B 7613:2015 家庭用はかり―一般用体重計,乳幼児用体重計及び調理用はかりHousehold scales — Bathroom scales, baby scales and cooking scales

法律・政令(2020年/12月現在)

法律:
計量法
政省令:
計量法附則第三条の計量単位等を定める政令
計量法施行令
計量法附則第十九条第一項の日を定める政令
計量法関係手数料令
計量法附則第三条の計量単位の記号等を定める規則
計量法関係手数料規則
計量法施行令附則第四条、第五条及び附則別表第四の規定に基づく質量計に係る経過措置に関する計量法施行規則

OIML R60:Metrological regulation for load cells
OIML R76-1:Non-automatic weighing instruments
Part 1: Metrological and technical requirements – Tests
JIS B 0192:はかり用語
JIS Z 8103:計測用語
「はかりハンドブック 第2版」:日刊工業新聞社発行