法規制、規格(3)

こんにちは。
今回は「法規制および規格」の第三回です。法規制や規格は時代とともに改正・改版されることがあるため、特定の法規制や規格を解説していても、投稿の時点で内容が変更されている場合があります。幸いにも、「JIS B 7611-2:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第2部:取引又は証明用」は現在のところ改版されていないようですが、文言に記載されていない事象や想定外の要件については、運用によって対処されている可能性もあります。

したがって、実際に型式承認を申請する際には、規格の文言通りの仕様や機能であっても、申請前に認証機関と打合せを行うことが望ましいです。特に、第三者機関の認証が必要な機器については、申請前に認証機関と十分に打合せを行うことが必要です。

前回に引き続き「JIS B 7611-2:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第2部:取引又は証明用」の解説を続けます。

「7 電気式はかりの技術要件」(JIS B 7611-2:2015 非自動はかり)

7項は外部影響要因に関する性能・機能要件について説明していますが、これを大まかに分類すると、「性能試験レベル」と「ソフトウェア要求事項」の2つに分かれます。性能試験に関しては、「付属書A 非自動はかりの試験手順」と「付属書B 電気式はかりに対する追加試験」に具体的な詳細が記載されているため、これらの項目で詳しく解説したいと思います。

注意すべき点として、国内のJIS規格では、試験レベルにおいて「レベルL」(要求が緩い)と「レベルH」(要求が厳しい)が適用されています。また、ソフトウェア要求事項は「レベルL」のはかりには適用されません。OIML-R76では、JIS規格の「レベルH」に相当する規格のみが存在しますが、JISでは旧規格の試験レベルを「レベルL」として存続させています。

どちらの試験レベルを適用するかは、申請者が申請時に選択できます。要求レベルの緩い「レベルL」で国内規格をクリアすることは可能ですが、輸出を検討している場合は国際規格(OIMLなど)の要求をクリアする必要があるため、機器の性能を十分に把握し、国際規格=レベルHの対策を講じることをお勧めします。JIS規格が国際整合性を考慮しているとはいえ、OIML規格と完全に一致しているわけではなく、使用者の視点から考えると、次回の改定では「レベルH」の試験レベルのみが適用される可能性が高いでしょう。

精度等級によって要求される性能が異なるため、申請する各器物の精度等級や目量などを慎重に検討し、試験内容を決定します。特に問題となるのが「温度性能(試験)」、「スパン安定性(試験)」、「EMC性能(試験)」などです。開発した製品が一度で要求規格をクリアすることは難しく、試験と対策の繰り返しを如何に減らすかがノウハウとなります。

筆者も前職ではEMC対策に悩まされ続けました。たとえ共通のハードウェア設計であっても、製品ごとにEMC性能が変化し、数えきれない回数の事前評価を含め、EMC試験を試験サイトで行っていました。特に、「レベルH」の放射電磁界イミュニティ=10V/mをクリアするには、セオリーに基づいた基本設計と、影響モード・条件に応じた最小限の対策が必要になります。

ソフトウェア要求では、ハードウェアのモジュール構成やソフトウェアの変更、更新管理が重要になります。単純な計量器の場合、ハードウェアのモジュール構成を分けるのは難しいですが、多機能な計量器では、法定計量に関するハードとプログラム、そして法定計量に関係しないハードとプログラムを分離できるようにしておくと汎用性が高くなります。これにより、法定計量に関係しないハードやプログラムは、バージョンアップが容易に行えます。

「7.5 ソフトウェア制御の電子装置の追加要件」

この項目は国内JISの「レベルL」のはかりには要求されませんが、「OIML R76」では要求されますので、最低限、プログラム番号やチェックサムなどを表示できる機能を備えていると良いでしょう。これにより、自社でのバージョン管理やメンテナンスも容易になります。

組み込みソフトウェアの場合、ハードウェア(CPUやROMなど)は固定され、プログラム内容も固定されることがほとんどですので、「7.5.1 a),b)」の要件を満足できるようにします。

「7.5.2 プログラム可能な又はロード可能な法定計量に関連するソフトウェアをもつはかり及び装置」

PCや汎用OSを内蔵したボードを使用する計量器も多数あり、「7.5.2.1」がハードウェア要件、「7.5.2.2」がソフトウェア要件になります。

「7.5.2.1ハードウェア要件」

JIS B 7611-2:2015の54,55ページの「表18−モジュールまたは周辺装置として使用するPCに対する試験および要求文書」には、カテゴリー別の必要な試験や文書の要求事項が規定されています。筆者は汎用OSを使用した特定計量器(型承品)の開発経験がないため、詳細な解説はできませんが、各社ともに要求事項に従って開発し、それぞれのノウハウとして蓄積しています。

カテゴリーによって、「付属書C 非自動はかり用モジュールとしての指示計及び アナログデータ処理の試験」や「5.10.2モジュール」、「5.10.3周辺装置」としての試験が要求されています。

「7.5.2.2 ソフトウェア要件」

PCの法定計量に関連するソフトウェア(計量特性,計量データ及び保存又は転送される計量上重要なパラメータを左右するもの)は,「付属書G ソフトウェア制御のデジタル装置及びはかりに対する追加試験」によって試験されます。
また、「7.5.2.2 a),b),c),d)の各項の要件を満足しなければなりません。

「7.5.3.2 法定計量に関連するデータ」

法定計量に関連するデータは、

 − 総量又は正味量及び風袋量(風袋量及びプリセット風袋量が並存する場合は,両者の区別情報を付さなければならない。)
− 小数点
− 単位(エンコード可能)
− 保存データの識別
− DSDに複数のはかり又は荷重受け部が接続されている場合は,その計量に使用されたはかり又は荷重受け部の識別番号
− 保存されたデータのチェックサム又はその他の署名“

になります。

「8項」は機械式はかりに相当する部分ですので省略します。

「9 はかり及びモジュールの表記」

9項は銘板等に記載する内容になります。それぞれの等級や条件によって「9項」の要求に従って表記します。

今回は以上になります。必要な本文の要求項目は以上なのですが、「付属書xx」に具体的な試験が記載されていますので、実際の製品開発・設計には「付属書xx」は重要な項目になります。次回以降順次解説して行きます。
前回も書きましたが、法令や規定はただ読んだだけではなかなか理解が進みません。具体的な製品、案件、事例などを対象に読み進めると、理解が早まると思います。もちろん、実際に製品を設計したり、評価試験を行うことが内容を理解する最短の方法ですので、ハード(回路)やソフト(プログラム)にこだわらず、ぜひチャレンジしてほしいと思います。また、確認のために何度も読み返すことをお勧めします。

「7.4.3項」の各種電気試験は実際の現物で行いますが、特にEMC試験は設計時に考慮していても1回で要求をクリアするのは難しく、追加対策や設計変更が必要になる場合が多くなります。そのため、自社のハードウェアや実装状態などのノウハウを蓄積しておくと良いでしょう。

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参考文献

質量計関連のJIS規格(最新版=年度は改版されている可能性があります)
JIS B 7601:1983 上皿天びん Trip balances
JIS B 7603:2019 ホッパースケール Hopper weighers
JIS B 7604-1:2019 充填用自動はかり―第1部:計量要件及び技術要件
Automatic gravimetric filling instruments — Part 1: Metrological and technical requirements
JIS B 7604-2:2019 充填用自動はかり―第2部:試験方法
Automatic gravimetric filling instruments — Part 2: Tests
JIS B 7604-2:2017/AMENDMENT 1:2019 充填用自動はかり―第2部:試験方法(追補1)
Automatic gravimetric filling instruments — Part 2: Tests (Amendment 1)
JIS B 7606-1:2019 コンベヤスケール―第1部:計量要件及び技術要件
Belt weighers — Part 1: Metrological and technical requirements
JIS B 7606-2:2019 コンベヤスケール―第2部:試験方法
Belt weighers — Part 2: Tests procedures
JIS B 7607:2021 自動捕捉式はかり Automatic catchweighing instruments
JIS B 7609:2008 分銅 Weights
JIS B 7611-1:2005 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第1部:一般計量器
Nonautomatic weighing instruments — Metrological and technical requirements and Tests — Part 1: General measuring instruments
JIS B 7611-2:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第2部:取引又は証明用
Non-automatic weighing instruments — Metrological and technical requirements and tests — Part 2: Measuring instruments used in transaction or certification
JIS B 7611-3:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第3部:分銅及びおもり―取引又は証明用
Non-automatic weighing instruments — Metrological and technical requirements and tests — Part 3: Weights and poises used in transaction or certification
JIS B 7612-1:2008 質量計用ロードセル―第1部:アナログロードセル
Load Cells for Weighing Instruments — Part 1: Analog Load Cells
JIS B 7612-2:2008 質量計用ロードセル―第2部:デジタルロードセル
Load Cells for Weighing Instruments — Part 2: Digital Load Cells
JIS B 7613:2015 家庭用はかり―一般用体重計,乳幼児用体重計及び調理用はかり
Household scales — Bathroom scales, baby scales and cooking scales

法律・政令
法律:計量法
政省令:計量法施行令、計量法施行規則、計量単位令、計量単位規則、特定計量器検定検査規則、基準器検査規則

OIML R60:Metrological regulation for load cells
OIML R76-1:Non-automatic weighing instruments
Part 1: Metrological and technical requirements – Tests
JIS B 0192:はかり用語
JIS Z 8103:計測用語
「はかりハンドブック 第2版」:発行:日刊工業新聞社