ひずみゲージ式ロードセル(1)

こんにちは。
今回は「ひずみゲージ式ロードセル」の紹介です。「ロードセル(Load cell)」と言う用語は力変換や荷重検出、質量計等のJIS規格もあり、用途によって広く用いられています。静電容量式や振動式等でも「xx式ロードセル」と呼ぶ場合があるようですが、こだわらない場合は「ひずみゲージ式ロードセル」を単に「ロードセル」や「ロードセル式xx」と呼ぶことが多いようです。
今回の「ひずみゲージ式ロードセル」は特に一般のはかり(天びん)や非自動はかり用に多用されているロードセルをメインとした解説です。以降、断らない限りひずみゲージ式ロードセルをロードセルと表現します。

ロードセルメーカの製品は、「OIML R60」や「JIS B 7612」で規定された性能、仕様の製品が多く、はかりメーカが自社はかりに使用しているロードセルは、自社で設計・生産しているか、ロードセルメーカにカスタム仕様で作らせている場合が多いようです。これは、非自動はかりとしての要求規格、「OIML R76」、「JIS B 7611-2」をクリアすることやコストの問題があるためと思われます。また、自動はかり関連でも自社製ロードセルを使用しているようです。
各規格の要求事項や性能に関しては適宜説明したいと思います。

各種ロードセルの技術資料や解説はセンサとしての歴史が古いこともあり、ロードセルメーカやはかりメーカのWebサイトに掲載されています。各種資料もWebで見つかると思いますので検索してみてください。ひずみゲージ式ロードセルの特徴や課題が理解できます。当ブログは一般的な基礎知識以外に、非自動はかりに応用する場合のロードセルの使用方法やアナログ回路等を複数回に分けて説明して行きたいと思います。

ロードセルは、用途によって多種多様の形状、仕様があり使い分けされています。一般的な表現として、圧縮型ロードセル、引張型ロードセル、ビーム型ロードセル、シングルポイントロードセル等々の名称で呼ばれ、それぞれの特徴、用途等広範囲に応用されています。その他の形状もあります。起歪体の材質はSUSが多く、シングルポイントロードセルはアルミ合金製が主流です。Webサイトを検索すれば各メーカの写真や製品仕様が見つかります。検索してみてください。

ロードセルの中で、はかり用として使用しているのが、シングルポイントロードセルです。起歪体を加工して並行リンク(ロバーバル)機構を構成し、計量皿を取り付けるだけで偏値誤差が少なく精度の高いはかりを作ることが出来ます。はかり用のシングルポイント型は、はかりケースに収納され比較的環境が良い場所で使われることや性能、コストの問題で、材質はジュラルミンが使用されています。
起歪体の材料は性能に影響するため、自社で高性能な再現性のあるロードセルを作る場合は、材料特性・仕様を材料メーカや購入先と取り決めをして入手してください。材料以外にひずみゲージの接着やコーティング等々の影響も大きいので市販品でも注意が必要です。
以降はこのシングルポイントロードセルについて解説します。

シングルポイントロードセルの基礎

測定原理を簡単に説明します。起歪体のひずみが大きな部分(Rで薄い)に張り付けられた4枚のひずみゲージ(R1~R4)をホイートストンブリッジの回路構成にします。荷重が加わると(図では下向き)R1とR3が伸びて抵抗値が増え、R2とR4が縮んで抵抗値が減ります。

 

 

 

この時の荷重時の出力Δeは、

 

 

 

となります。右の式はひずみ「ε」に比例していることを表し、起歪体の設計ではひずみをいくつにするかが重要になりますのが、市販されているロードセルを使用する場合は、定格としての電圧出力で考えれば十分です。
Δeの電圧はそのままでは数mVと微小電圧のため、OPアンプや計装アンプで数Vまで増幅して使用します。最近はA/DコンバータやLCD表示器がモジュール品として市販されていますので、表示するだけであれば簡単に試作できます。
実際のロードセルはR1~R4のひずみゲージだけで構成されているわけではありません。温度補償、出力調整、ゼロバランス調整、非直線性補正、等々各種の補正・補償抵抗が内蔵されています。使用するうえでは入出力端子間抵抗の一部と考えて問題ありません。

重要なのはロードセル単体の特性とアナログ回路の構成です。市販のロードセルで精度等級C3やC6の規格品は、その精度等級の性能が保証されていますので、アナログ回路やA/Dコンバータの設計を適切に行えば、精度の高い計量器(はかり)を作ることが可能になります。
はかりメーカの製品は、自社製のロードセルに自社製の回路で構成されています。当然と言えば当然ですね、自社製品の優位性を強調するために必要なことです。また、計量法で規定されている「非自動はかり」の型承品で1/3,000を満足させるには、それなりの工夫が必要であり品質やコストも関係してくるので自社開発することになるでしょう。
非自動はかりの技術基準はJISで規定されていますので、市販のロードセルを使用してその性能を満足させるための検討や設計上の解説を出来る限り行いたいと思います。

ロードセルの仕様

ロードセルの仕様を見てみましょう。カタログや仕様書には沢山の項目が列記されていますが、押さえておくべき主な項目を下記します。用語や内容は「OIML R60」や「JIS B 7612-1」で規定されていますので合わせて読んでおくとよいでしょう。各メーカのWebサイトにも解説があります。

用語 内容・意味 参考値
定格容量(荷重)
(rated capacity(load))
設計上の仕様を保って計測し得る最大容量。定格荷重ともいう。R.C.(rated capacity)と表現します。 3000g、6000g、15kg、etc.
精度等級
(accuracy class)
検定目量の最大数で区別される精度分類
クラスA,B,C,D
C3、C6
定格出力
(rated output)
定格出力 ロードセルへ定格荷重の負荷を加えたときの出力。印加電圧1V あたりの出力(mV/V)で表す。R.O.(rated output)と表現します。 2mV±0.2mV
許容過負荷
(Safe overload)
特性上,仕様を超える永久変化を生じることなしに負荷できる最大荷重。定格容量に対する%で表す。 150%
最大許容過負荷
(Minimum overload)
機械的損傷をおこすことのない限界負荷、定格負荷に対する%で表す。 300%
ゼロバランス
(Zero Balance)
(無負荷出力)
無負荷時のロードセルの出力。定格出力に対する%で表す。  0±0.1 mV/V
非直線性
(Non-liniearity)
無負荷時の出力と定格負荷時の出力を結ぶ直線に対する校正曲線との最大偏差。定格出力に対する%で表す。(荷重増加時のみ)(%R.O) (±)0.01%R.O
ヒステリシス
(Hysteresis)
負荷増加時と負荷減少時のロードセル出力の差の最大値。定格出力に対する%で表す。(%R.O) (±)0.01%R.O
繰返し性
(Repeatability)
 同一の負荷条件並びに同一の周囲条件において同じ荷重を繰り返し負荷したときの出力の最大差。定格出力に対する%で表す。(%R.O) (±)0.01%R.O
*注)非直線性、ヒステリシス、繰返し性等をすべて含めて「トータルエラー」で表現している場合もある。例)Total error (±)0.02%R.O
ゼロリターン(zero return) 荷重を加える前のゼロ点出力と荷重を加えて取り去った後のゼロ点出力との差。(%A.L)
クリープ又はクリープ回復性で表現する場合も有る。
 0.017%
ゼロ点の温度影響
(Temperature effect on zero )
無負荷の状態で周囲温度が変化した時のゼロバランスの変化。周囲温度1℃(又は10℃)あたりの出力とし、入力換算値で表す。(%R.O./℃(or10℃))  0.002%R.O/℃
出力の温度影響
(Temperature effect on output)
 周囲温度の変化に起因する定格出力変化。
周囲温度1℃(又は10℃)あたりの変化を定格出力に対する%で表す。(%R.O./℃(or10℃))
0.001%R.O/℃
推奨印加電圧
(Recommended Excitation voltage)
メーカが推奨する印加電圧(V) 10Vdc(5V~10V) or 10Vrms(5V~10V)
最大印加電圧
(Maximum Excitation voltage)
ロードセルの特性を変化させることなく与えることが出来る最大の印加電圧 (V)
*推奨印加電圧の最大値の場合もある。
15Vdc or 15Vrms
入力端子間抵抗
(Input Terminal Resistance(impedance))
入出力端子の負荷に何も接続されておらず、かつ無荷重の時の入力端子間の抵抗値 (Ω)  415Ω±20Ω
出力端子間抵抗
(Output Terminal Resistance(impedance))
入出力端子の負荷に何も接続されておらず、かつ無荷重の時の出力端子間の抵抗値 (Ω) 350Ω±3Ω
補償(使用)温度範囲
(Compensated Temperature Range)
仕様に定められた範囲内に定格出力と零点が保つように補償されている温度範囲 (℃) -10℃~+40℃
偏心荷重エラー
(Eccentric loading error)
荷重が中心位置からズレた場所に負荷された場合の出力割合。
指定の形状で計量範囲の上限の約1/3の荷重を付加した場合で定義するか(%R.O)、ズレた距離の定格荷重に対する%で表す。(±% of rated load/cm)
 0.005%R.L/cm
計量プラットフォーム
(Platform size)
性能を保証する計量皿の大きさ 400×400(mm)

*注) 参考値は特定の製品の仕様ではありません。
項目が沢山あるように見えますが、基本設計を行うための必要最小限の項目と思ってください。これらの参考値をもとに実現しようとしている非自動はかりの製品が可能なのかどうか、検討して行きます。

非自動はかり用のロードセルの検討

非自動はかりの概略仕様を、ひょう量(最大荷重)は3000g、目量(e):1g、計量皿:200mmx200mm、温度範囲:+5℃~+40℃、1/3,000(Ⅲ級)の非自動はかりのとして妨害を除く基本性能を満足できるかどうかを検討します。
市販のロードセルの仕様を確認する際は「OIML R60」やNTEPの精度等級(accuracy class)を確認してください。「C3」とか「C6」を取得しているロードセルはC3であれば1/3,000、C6であれば1/6,000が保証されていますので、そのまま使用できる可能性があります。
ひとつひとつ検討して行きます。

[定格容量]
はかりのひょう量は3000gですが、使用するロードセルの定格容量は2倍程度の器物を使用します。これはロードセル単体では150%の許容過負荷しかなく、強度を上げる、機械的なストッパーで過負荷や衝撃荷重から保護する、耐久性を上げる、初期荷重を考慮する、等々のためです。ロードセルの定格容量をはかりのひょう量程度で設計しているメーカはほぼないと思います。従って6000gのロードセルで検討します。

[定格出力]
定格出力2mV/Vは定格容量に対して1Vの印加電圧の条件ですので、3000gでは1mV/Vになります。印加電圧E=5Vとすると、5mV/3000gの出力になります。この電圧は微小なのでOPアンプや計装アンプで、例えばA/Dコンバータの定格入力電圧まで増幅します。定格出力は高い電圧の器物を選択してください。定格で1mV/V以下になるとS/N比等で不利になってきます。

[非直線性等々]
非直線性、ヒステリシス、繰返し性をこのまま加算すると最大0.03%(0.01+0.01+0.01%)になりますが、1/2荷重で使用するため「0.02%」程度を見込みます。また、トータルエラーで考えるときは「0.02%」なので1/2の「0.01%」を見込みます。この数値ではクリアできそうです。

[ゼロリターン]
ゼロリターンは荷重が1/2になりますので誤差も0.008%程度と見込みます。初期荷重が重い場合はゼロ点設定の精度にも影響する場合がありますので注意しておきましょう。この数値もクリアできそうです。
ただし、温度変化に対して特性が変化しないかは注意しなければなりません。データシートに項目がないので実際の試験を行い確認しておくとよいでしょう。上記の[非直線性等々]も同じで温度特性が判断できません。両方とも精度等級で保証された器物であれば温度依存性は少ないと思われますが、一緒に確認しておくことをお勧めします。

[温度影響]
ゼロ点の温度影響は0.002%R.O/℃で35℃の温度変化とすると0.07%/35℃。JISでは5℃でeを超えない要求のため、0.01%/5℃ですがx2で0.02%/5℃と見込んでおきます。1/3000はクリアできそうです。
出力の温度影響はJISでは検定公差(mpe)になるため、各特性の合計「0.02%」か、トータルエラー「0.01%」に0.001%R.O/℃の変化が加算されます。mpeは目量の数で変わるので、500gまでが0.5e=0.5g、501g~2000gまでが1.0e=1g、2001g~3000gまでが1.5e=1.5g以内に、全温度範囲でクリアできれば良いことになります。
35℃の温度変化とすると、トータルエラーの場合は最大「0.035%/35℃+0.01%=0.045%」、各特性を合計した場合は最大「0.035%/35℃+0.02%=0.055%」、変化する可能性があります。荷重の数値に換算すると、トータルエラーの場合は最大1.35g/3000g、0.9g/2000gになり、クリアできそうです。しかし、各特性を合計した場合は最大1.65g/3000g、1.1g/2000gになり、オーバーしてしまいます。
このような場合には、実際に試験を行い性能の見極めが必要です。国際規格等で認証された精度等級をクリアしているロードセルは使用できる場合が多いのですが、歩留まりを考えて量産時には注意が必要です。

[印加電圧]
ロードセルへの印加電圧は結構重要で性能と製品仕様に関係します。ロードセル式のはかりは電池仕様の製品が多く「電池本数は最少、動作時間は最長」が要求になりますので、3V~6V程度の電源電圧(回路)になると思われます。推奨印加電圧は「5V~10V」のように範囲が指定されている場合は、印加電圧が低くなると性能が悪くなる可能性もあります。推奨以下の印加電圧で使えないわけではありませんが、推奨以下の印加電圧で駆動する場合は性能確認を充分行っておくとよいでしょう。電池も1.1V/本程度まで使いたいので仮に4.4V/4本でも性能が確保できるようにするためには、DC/DC電源を使用するような回路が必要になりそうです。DC/DC電源の使用もノイズの原因になりますので注意が必要です。

[偏値誤差、計量皿]
計量皿が200×200(mm)、センタから1/4の距離は≒70mm、1/3荷重=1000gで、0.005%R.L/cmの特性であるとすると、0.35g/70mm/1000gとなります。mpeはe=1gなのでクリアできることがわかります。もう少し計量皿は大きくできそうです。
計量皿はなるべく大きくしておくと使い勝手が良くなります。その分、性能が厳しくなりますが性能が許す限り大きくしたいものです。計量皿の質量は初期荷重になりますので、出来るだけ軽く製作しておくとよいでしょう。ロードセルの選択や性能に関係してくるからです。

非自動はかりの要求性能(JIS)は、その他多数の項目がありロードセル単体のデータシートだけで判断できるわけではありませんが、少なくともロードセル単体に要求する性能がなければ、回路やソフトの補償で対応できるものではありません。設計する非自動はかりの要求性能に見合うような、適切なロードセルを選択しましょう。
実際はロードセル単体の性能が充分であったとしても、非自動はかりの要求性能を満足し計量性能を向上させるため、電気回路やソフトでの補正や補償を行っています。また、すべてに言えることですがデータシート上は良くても実際に現物を評価して可否を判断することが重要です。特に温度特性や再現性はデータシート通りには行きません、十分な試験とデータの再現性を確認しておきましょう。

ロードセルが使えるとなってもアナログ回路以降の電気部にドリフトや精度への影響があっては本末転倒です。特にアナログ回路や印加電圧、A/D変換は直接精度に影響します。設計の良し悪しで製品の品質も変わります。適切で完成度の高い設計を心がけてください。

今回はひずみゲージ式ロードセルの基本を解説しました。
次回以降「アナログ回路」やはかりのJIS規格等々の解説を行いたいと思います。ひずみゲージ式ロードセルは秋葉原や通販で、名のあるメーカ品やOIML R60認証品もオンラインで入手できるようになってきています。認証品は高価ですが実験や治工具用であれば安価なロードセルが入手できますのでぜひ試してみてください。

ご意見ご要望をお待ちしております。

参考文献:
OIML R60:Metrological regulation for load cells
OIML R76-1:Non-automatic weighing instruments
Part 1: Metrological and technical requirements – Tests
JIS B 0155:工業プロセス計測制御用語及び定義
JIS B 7612-1:質量計用ロードセル-第1部:アナログロードセル
JIS B 7602:力計の校正方法及び力変換器の性能試験方法
JIS B 0192:はかり用語
JIS Z 8103:計測用語
「はかりハンドブック 第2版」:日刊工業新聞社発行
ロードセルメーカ、はかりメーカの各Webサイト