法規制、規格(2)

こんにちは。
前回投稿の「音叉振動式力センサ(2)」から1年経ってしまいました。出来るだけ短い間隔で投稿ができるよう努力して行きたいと思います。ありがたいことに読者(と言うのかな?)から新しい投稿を催促され、うれしい限りです。また、もう少し解りやすく解説してほしいとのご指摘もいただきました。技術者向けのマイナーな分野・領域に少しでも興味を持っていただきたい、との思いで当ブログを始めましたが、初心者でも理解できるように努力して行くつもりです。

今回は「法規制、規格」の第二回です。前回は質量計のJIS規格B7611-2の具体的な項目に入りましたが、少し戻って電気機器の全体的な内容を書いておきます。
電気・電子機器の規制は機器本体の性能・機能に関するもの、一般電気機器として要求されるもの、機器によっては安全規格の要求があるもの、等が考えられます。性能・機能に関しては機器本体が影響を受ける内容と機器本体が外部に影響を与える内容に分けられます。多くの法規制や規格は機器本体が外部に影響を与える項目が多いのですが、質量計等は機器本体が影響を受ける規格が厳しくなります。また、機器によっては性能・機能だけでなくPL対応や安全規格対応も必要です。

右の写真は筆者のデル製パソコンのACアダプタに表示されている取得済み規格マーク類の写真です。実に多くの国・地域の規制やIEC等の規制を受けているかが解ります。特に商用電源を使用する機器は電源部分の規制、規格をクリアする必要があります。
CE(EU)、cUL(カナダ含む米国)、CCC(中国)、KC(韓国)、EAC(ユーラシア)、PSE(日本)、RoHS、WEEE、等々世界中で製品を販売するためには必要な規制、規格をクリアすることが必須の条件であることが解ります。
国、地域によって法規制、規格は異なりますが、基本になる部分は同じとも言えますので、電気・電子機器としての基本設計は共通しているとも言えます。また規制・規格は毎年、あるいは数年おきに改定されたりしますので、設計者は常に最新情報を把握しておくと良いでしょう。

近年(だいぶ前から?)日本の技術力や国力が停滞(相対的に低下?)していると言われて(反論もある)います。話題性のある最先端のIT機器やシステムだけが技術力云々と言うわけではないと思いますし、№1が全て最先端の技術で出来ているわけでもないと思います。しかし「技術革新」が社会問題の解決を含めて求められている時代になっている現状では、技術者は大変ではありますが自らの技術で未来を作り出し、社会や時代に貢献して欲しいと思います。果敢にチャレンジしましょう。
また、グローバル化した世界市場の中で、法規制や規格取得に正面から取り組み、クリアし続けているのも日本製品であり、品質や技術力を維持できていることも事実だと思います。

前置きが長くなりましたが、前回に引き続き「JIS B 7611-2:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第2部:取引又は証明用」の解説を続けます。

JIS B 7611-2:2015 非自動はかり

「5.10 型式承認試験及び審査」
5.10.1項はセンサやデータ処理、表示、キー等が一体化されている「完成したはかり」、所謂一般的な「はかり」、「天びん」や「台はかり」についての試験項目が書かれています。行数は少ないのですが大半の試験を行うことが解ります。

5.10.2項はモジュール試験に関する内容です。モジュールの定義は3.2.2項に基本的な構成が示されていますので、自社の製品をモジュール構成で考える時に参考になります。
筆者はモジュール構成で型承を取得する製品を設計したことはありませんが、センサモジュールや表示器モジュールの製品構成にする場合は「5.10.2.1誤差配分」から、それぞれのモジュール構成や性能を試算、確認しておくと良いでしょう。

6項は技術要件で6.1項が構造要件、6.2項が表示の要件になります。6.1.2.5項「調整」と6.1.2.6項「重力補正」は所謂「スパン調整」と「重力補正」(場所による重力加速度補正)で、スパン調整では、はかりに内蔵された調整用分銅も使用できます。外部分銅等によるスパン調整、重力補正は封印後は外部から操作できないようにしなければなりません。

質量計のデジタル表示に関して、小数点の表記は日本では「.」(ピリオド)で「12.345g」のように表示されますが、欧州では「,」(コンマ)が使われているはかりもあり「12,345g」のよう表示します。これは数学の世界になりますが、日本ではイギリス式の「.」が多く「,」はフランス式の表記になるようです。どちらでも良いことになっていますが、欧州の製品は「,」が多いようです。はかりの表示器(素子)は両方対応できるようにハード設計され、必要に応じて選択できるようになっています。
また、単位のグラム表記に関しても「g」と「g」が使用されていますが、国内では「g」が多いようです。

閑話休題

「6.4.1 デジタル表示装置及び印字装置」
表示サンプリング(更新間隔)は1秒を超えない、とあり高分解能を実現している製品などは、表示の安定を得るために適切な信号処理が必要になります。

「6.4.2 安定した釣り合い」
現代では解りずらい表現かも知れません、両天びんのさおが釣り合って安定している状態からきている表現と思われます。各社表示方法が別れているのですが、電子天びん等では質量表示の最小表示の変化がなくなり「安定表示マークが点灯」または「非安定表示マークが消灯」している状態を示しています。

「6.4.3 拡張表示装置」
実目量(d)を表示できる機能になります。
「-操作キーを押している間」
「-手動操作の後の5秒以内」
のみ表示が可能で、「補助表示装置」がある場合は使用できない、拡張表示は印字出来ない等の制限があります。
例えば、ひょう量=300g,目量(e)=0.1g,実目量(d)=0.01gで実目量(d)が拡張表示機能の場合では、通常は「200.0g」表示ですが何らかの「操作キーを押している間」又は「操作後5秒間」だけ「200.01g」と表示する機能です。

「6.5 零点設定装置及び零トラッキング装置」
ゼロ点及びゼロトラッキング範囲は、ひょう量の4%まで、初期ゼロ点範囲はひょう量20%までになります。初期ゼロ調範囲は電源オン時の初期ゼロ調範囲になり、20%まで可能ですがひょう量まで性能を維持できなければなりませんので、最大ひょう量+20%まで性能は必要になります。
また、20%を超えて範囲を拡大することは可能ですが、その分性能も維持できなければなりません。例えば、+50%の初期ゼロ調整範囲を指定することは可能ですが、ひょう量+50%まで性能を維持する必要があります。
ゼロ設定の精度は目量の1/4(±0.25e)、同じキー操作でゼロ点設定動作と風袋設定動作が可能になっています。ただ、ゼロ点設定と風袋設定のキーは別々しておくと解りやすいと思います。

「6.5.5 デジタル表示装置付きはかりの零点表示装置」
本文中には具体的な指定は有りませんがピクトグラムで「→0←」や「>0<」などが有り、「ZERO」の文字を「◀」等で指し示す製品もあります。

「6.5.7 零トラッキング装置」
いくつかの要件はありますが、1秒以内で目量の1/2(±0.5e/秒)又は実目量で1/2(±0.5d/秒)の動作が可能です。

*特定計量器は法規制の対象になりますので、必要な規格をクリアしなければなりませんが、規制に含まれない計量器も有ります。ある意味自由に作ることが出来るわけですが、おそらく国内メーカの規制を受けない計量器でも、計量性能はJIS規格をベースにして、その他必要なアプリケーションに対応した製品を提供していると思われます。

「6.6 風袋引き装置」
目量e、実目量dと等しい、精度=±0.25e(d)、作動中の表示、記号「T」や風袋量の表示、印字等他の制限・規制があります。
大半の計量器は「減算式風袋引き」になっており、風袋引きを行うとその分計量できる範囲が少なくなります。例えばひょう量100kgで60kgの風袋引きを行った後の計量範囲は40kg(100kg-6okg)になります。「加算式風袋引き」も可能ですが「加算する風袋範囲+ひょう量」で要求性能を満たす必要があります。

今回は以上になります。JIS B 7611-2の全ての項目に対して一対一の解説はしていませんので、実際の設計では各項目のチェックリストを作成して確認することが必要です。前回も書きましたが、法令や規定はただ読んだけではなかなか理解が進みません。具体的な製品、案件、事例等を対象に読み進めると理解が早いと思います。勿論実際の製品を設計したり、評価試験することが内容を理解するうえで最短になりますので、ハード(回路)、ソフト(プログラム)にこだわらず、チャレンジして欲しいと思います。また確認のため何度も読み返すことをお勧めします。
JIS規格は一般的に5年ごとに見直しされます。実際には改版が必要ない場合も多く、最新版でも版数年度が古い場合もあります。「JIS B7611-2」も最新が2015年版でOIML R76との整合性があるとはいえ見直しの時期かもしれません。

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参考文献
質量計関連のJIS規格(最新版=年度は改版されている可能性があります)
JIS B 7601:1983 上皿天びんTrip balances
JIS B 7603:2019 ホッパースケールHopper weighers
JIS B 7604-1:2019 充填用自動はかり―第1部:計量要件及び技術要件Automatic gravimetric filling instruments — Part 1: Metrological and technical requirements
JIS B 7604-2:2019 充填用自動はかり―第2部:試験方法Automatic gravimetric filling instruments — Part 2: Tests
JIS B 7604-2:2017/AMENDMENT 1:2019 充填用自動はかり―第2部:試験方法(追補1)Automatic gravimetric filling instruments — Part 2: Tests (Amendment 1)
JIS B 7606-1:2019 コンベヤスケール―第1部:計量要件及び技術要件Belt weighers — Part 1: Metrological and technical requirements
JIS B 7606-2:2019 コンベヤスケール―第2部:試験方法Belt weighers — Part 2: Tests procedures
JIS B 7607:2021 自動捕捉式はかりAutomatic catchweighing instruments
JIS B 7609:2008 分銅Weights
JIS B 7611-1:2005 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第1部:一般計量器Nonautomatic weighing instruments — Metrological and technical requirements and Tests — Part 1: General measuring instruments
JIS B 7611-2:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第2部:取引又は証明用Non-automatic weighing instruments — Metrological and technical requirements and tests — Part 2: Measuring instruments used in transaction or certification
JIS B 7611-3:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第3部:分銅及びおもり―取引又は証明用Non-automatic weighing instruments — Metrological and technical requirements and tests — Part 3: Weights and poises used in transaction or certification
JIS B 7612-1:2008 質量計用ロードセル―第1部:アナログロードセルLoad Cells for Weighing Instruments — Part 1: Analog Load Cells
JIS B 7612-2:2008 質量計用ロードセル―第2部:デジタルロードセルLoad Cells for Weighing Instruments — Part 2: Digital Load Cells
JIS B 7613:2015 家庭用はかり―一般用体重計,乳幼児用体重計及び調理用はかりHousehold scales — Bathroom scales, baby scales and cooking scales
法律・政令
法律:計量法
政省令:計量法施行令、計量法施行規則、計量単位令、計量単位規則、特定計量器検定検査規則、基準器検査規則

OIML R60:Metrological regulation for load cells
OIML R76-1:Non-automatic weighing instruments
Part 1: Metrological and technical requirements – Tests
JIS B 0192:はかり用語
JIS Z 8103:計測用語
「はかりハンドブック 第2版」:日刊工業新聞社発行