防爆電気機器(3)

こんにちは。
今回は「防爆電気機器」の第3回になります。
前回(2)では防爆構造の概要や設計の基本を説明しました。何もないところから防爆製品を完成させるには、時間と労力が掛かりますので、初めて防爆機器を設計することになった場合は、なるべく既存の自社製品を、防爆仕様へ設計変更することから始めることをお勧めします。新しく防爆仕様の自社製品を開発するような場合には、まずは一般仕様の製品開発を行い、自社製品を確立してから防爆仕様製品へ展開することをお勧めします。
今回以降、具体的な防爆電気機器の設計について解説して行きますが、「ガス蒸気防爆構造」の防爆電気機器を対象に、基本は「本質安全防爆構造」の機器の設計について説明して行きます。

防爆電気機器の設計

前回も説明しましたが、防爆仕様の設計を行うために4項目を決定します。ここではガス蒸気防爆構造の「グループⅡ」を前提とします。

1.対象ガスの決定
分類A(ⅡA)、分類B(ⅡB)、分類C(ⅡC)の対象ガスを決める。
単一の目的で単一のガスが対象であれば、そのガスのみをターゲットに設計しても良いのですが、自社の汎用品として開発する場合は、「ⅡC」や「ⅡB」を対象としておくと良いでしょう。
2.温度等級の決定
最高表面温度:T1≦450℃,T2≦300℃,T3≦200℃,T4≦135℃,T5≦100℃,T6≦85℃を決める。
汎用的に広い範囲をカバーするのか、単一のガスを対象にするのか、また、自社機器の発熱量で目的の温度等級をカバーできるのか、を検討しておきます。「T6」を実現できれば理想的です。
3.機器保護レベル(EPL)の選定
Ga,Gb,Gcを決める(容器による粉じん防爆構造を追加する場合は、Da,Db,Dcを決める)。
ただし結果として、要望するEPLにならない場合も有ります(Gaを目指したがGbになる)。
4.設置個所の選定
特別危険箇所(Zone 0)、第一類危険箇所(Zone 1)、第二類危険箇所(Zone 2)を決める。
防爆構造によって設置箇所に制限があります。全てをカバーする特別危険箇所(Zone0)に設置できる防爆構造は、本質安全防爆構造の「ia」と樹脂充填防爆構造の「ma」になります。
実用的には第一類危険箇所(Zone 1)で使用出来れば良い場合が多いのですが、他社比較や製品の優位性も考慮しておきます。

ここでは、「Ex ia ⅡB T4 Ga」の防爆構造と仮定します。
ia:本質安全防爆構造の特別危険箇所に設置可能。
ⅡB:分類B。
T4:最高表面温度≦135℃。
Ga:極めて高い保護レベル
とは言え、全ての電気機器がこの条件(防爆構造)で設計できるわけではありません。自社の機器の特性で「ia」や「ⅡB」、「T4」、「Ga」が難しい場合も有ります。あるいは最も難しい「ⅡC」や「T6」がクリアできるかもしれません。製品に要求される仕様や技術的難易度も関係しますので、自社の製品特性に合わせて防爆構造を決定して良いと思います。筆者の希望は、可能な限り要求レベルの高い防爆構造を選択して欲しいと思います。

また、ライバル会社の製品と比較することも必要です。機器本体に絶対的優位性がある場合は、防爆構造の多少の差は問題にならないかもしれませんが、自社製品を差別化するためにも、防爆構造の仕様決定には他社比較も行っておきましょう。
その他、製品の電源が「電池」なのか、商用電源を利用するのかによって設計が変わります。最初に検討し両方製品化する場合は、共通化を考えておきます。筆者が設計に関係した本安機器は、乾電池仕様と商用電源(回路はDC動作)仕様の2種類に分かれていましたが、制御回路(CPU、周辺)やアナログ回路等、ハードやソフトは出来るだけ共通化されていました。製品の筐体や回路部分は、電池式と商用電源式の共通化がある程度可能ですが、認証取得や製品としては別物になります。

設計の手順として、防爆構造を先に確定する場合と、自社の機器特性から防爆構造を決定する方法が考えられます。つまり防爆構造の目標を先に決め、自社製品をその防爆構造に合うように設計するか、自社の製品特性で実現可能な防爆構造を選んで設計するかの違いです。どの防爆構造を選択しても、自社製品に優位性(競争力)があれば、既存の機器で取得可能な防爆構造への設計変更で良いかも知れません。ただ、レッドオーシャンの市場では、競争力のある防爆構造に、自社製品を設計変更することが必要と考えます。

本質安全防爆構造(本安)の機器の設計

設計指針は (独)労働安全衛生総合研究所技術指針の下記ふたつになります。Webで見ることは出来ますがダウンロードが出来ません。(公社)産業安全技術協会が冊子を発行していますので購入が可能です。IECExは国内技術指針のもとになる国際規格です。技術指針とほぼ同じ内容ですが、国内申請のみであれば技術指針のみを参考にしても構いません。

1.「 総則:JNIOSH-TR-46-1:2015」
IECEx:IEC60079-0 Part-0:Equipment – General requirements
注)2021年に総則は2020年版(JNIOSH-TR46-1:2020)がWebで公開されています。Ex2015、Ex2018、Ex2020版すべてが有効と書いてありますが、新規申請分にはEx2020で該当する部分があれば追加されると思います。いずれ冊子が刊行されると思いますが、読み込んで自社の防爆構造に影響がないかどうか調べておきましょう。

2. 「本質安全防爆構造 ‘i’:JNIOSH-TR-46-6:2015」
IECEx:IEC60079-11 Part-11:Equipment protection by intrinsic safety ‘i’
IEC版は2011年版(Ed.6)から基本が変わってないようですが、経過時間からすると改定作業が進んでいても良いように思います。IECExのWebサイトを見ると、ISH(Interpretation sheet)も発行されているようです。

上記の内容は防爆構造の技術指針ですので、機器の設計手順が書いてあるわけではありません。防爆構造にするための要求事項が書かれているだけで、自社の機器をその要求に合わせて設計することになります。最初は指針だけ読んでも、自社の機器と結びつかない項目があると思います。要求事項と自社機器への適応範囲、項目、箇所を丹念に調べて、設計変更しなければならない項目を洗い出してください。

本安機器設計の基本

本安機器の要求事項は沢山あり、重要な項目を中心になるべく多くの項目を解説して行きたいと思います。電気的な要求事項がほとんどですが、金属材料やプラスチック材料に対する要求もありますので、併せて理解するようにしてください。
基本の「点火エネルギーと熱」を考えれば、短絡電流の制限、”L”,”C”の容量制限、抵抗(体)、半導体等の発熱制限を「ⅡB」、「T4」に合わせて設計するようにします。

最少点火電流や最小点火電圧、許容短絡電流、許容静電容量値は指針(JNIOSH-TR-46-6:2015)の図A.1~A.8、表A.1~A.2に規定されています。自社の機器がこの許容範囲内で、動作仕様(防爆ではない)を満足する設計が出来るのか、を確認します。出来るなら機器の動作範囲の環境変化(温度、湿度、etc.)を含めて検証しておくと安心です。

例えば、最小点火電圧(回路動作電圧ではない)が「7V」であれば、「ⅡB」機器の許容静電容量の合計値は300μF(安全率x1.5)が設計の目安になります。最小点火電流は使用するインダクタンスLの総量に関係し、例えば700μH程度で0.6A程度になります(図A.4)が、発熱量や他の条件を考えると0.2A~0.3A以下に抑えることになると思います。また、DC/DC電源等のようなエネルギーを蓄積する回路に使用する場合は、LC混合回路の制約からC値やL値は1%以下の値にする必要があります。

半導体のような小型部品の表面温度は、表3a、3b(指針JNIOSH-TR-46-1:2015) にあるので確認しておきましょう。実質本安機器の本体電力は、0.5W程度以下にならざるを得ないので、発熱させる部品を使用していない限り、あまり問題になることはありません。安全保持抵抗も、十分余裕のあるワット数の抵抗を使用すれば良く、乾電池を使用する場合は、乾電池を短絡させて乾電池の表面温度を測定しますので、この温度が最高表面温度になる場合が多いと思います。

図は乾電池駆動の場合の考え方の模式図の例です。本安回路はそれぞれの機器の回路に相当し、乾電池で駆動しようとする場合です。ここでVBmaxは、使用する乾電池のIECで規定されている最大回路電圧になり、アルカリ乾電池の場合は1.65V/本になります。定格の1.5V/本ではありません。

この電圧で防爆に適合する設計条件を決めて行きます。安全保持抵抗Rは本安回路の動作電圧・電流にもよるのですが、本安回路が許容できる範囲で最大の抵抗値を選定しておきます。例えば本安回路電圧(動作電圧)が3V、電流が10mAで動作するならば、電池の終止電圧を1Vと仮定するとR=100Ωが使用できることになります。
安全保持抵抗Rに100Ωが使えると、本安回路(1)でDC/DC電源等にLを使用する場合は、LC混合回路の制約条件でも概略260μH程度が使えます。
最近のDC/DC電源用ICは数μFのインダクタンスで動作しますので、あまり考慮する必要はないかも知れません。本安回路が簡単な構成ならば良いのですが、一般的にはCPUを含む複雑な回路になりますので、L,Cの容量は指針と実際の機器の動作条件を比較し、検討しておく必要があります。

次回以降も設計要件を説明して行きたいと思います。繰り返しになりますが、最初に開発する製品の防爆仕様は、必要なランク以上の防爆仕様を考えてほしいと思います。ワンランク上にトライすることは、製品の市場価値、技術レベルの向上以上に自社の価値(技術)、そして自社の将来への資産になると考えます。防爆電気機器は、技術要件と自社製品の対応が設計当初には完全に見通せず、途中の設計変更や製品仕様の変更を余儀なくされる場合も有るかもしれません。しかし苦労した分、製品の価値は大きく、技術資産になると信じます。また、完成後も市場の声に答えて改良を加えることで、市場の評価も上がります。地道に取り組まれることを望みます。

 

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参考文献
(独)労働安全衛生総合研究所技術指針:https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/tr.html
(公社)産業安全技術協会:https://www.tiis.or.jp/07_01_subcategory/
工場電気設備防爆指針(国際整合技術指針):JNIOSH-TR-46-xx:2015,:2018
ユーザーのための工場防爆設備ガイド:JNIOSH-TR-NO.44
「IEC(EN) 60079-xx」シリーズ規格:Explosive atmospheres – Part xx
「ISO/IEC80079-34」:Explosive atmospheres — Part 34: Application of quality management systems for Ex Product manufacture
新光電子株式会社ホームページ:http://www.vibra.co.jp