ひずみゲージ式ロードセル(3)

こんにちは。
今回は「ひずみゲージ式ロードセル」の第3回です。第1回ではロードセル単体、第2回ではアナログ回路の解説を行いました。今回は規格等の解説の予定でしたが、ひずみゲージ式ロードセル本体の詳細を説明したいと思います。
また、今回は一般的なはかりに使用され、シングルポイント型と呼ばれるロードセルに関する説明です。ひずみゲージ式ロードセルは形状や構造が多種多様で、はかり用に使用されているものはロードセル全体の中のごく一部です。今はWebで情報が収集できますので他のロードセルも検索してみてください。

ひずみゲージ式ロードセル

図はロードセルに使われるひずみ検出用の箔ゲージの一例です。ロードセル用のゲージは一般的に350Ωの抵抗値のものが使用されています。ゲージの材質は銅・ニッケル(CuNi)系合金やニッケル・クロム(NiCr)合金が使用されています。第1回で説明したように、起歪体にひずみゲージを4ヶ所貼り付け、ホイートストンブリッジ回路で説明される場合がほとんどですが、
実際には右側の図のように、温度補償用の抵抗や出力調整用の抵抗等々が実装されて、若干複雑な内部回路構成になっています。

ただ、ユーザは内部回路は考慮する必要はなく、第1回で書きました仕様(スペック)をもとに使う限り問題はありません。内部回路はロードセルメーカによって違いがあり、すべてが図のようになっているわけではありません。各メーカでそれぞれ工夫されています。
第1回で説明した「入力端子間抵抗」と「出力端子間抵抗」を表す抵抗値ですが、表では入力端子間抵抗が415Ωになっていました。ひずみゲージは350Ωですが、出力電圧調整用の抵抗や温度補償用の抵抗等がシリーズで挿入されているため、入力端子間抵抗が高くなっています。

ひずみゲージの構造
ひずみゲージの構造はベース、抵抗素子、ゲージリード、ラミネートフィルム等から構成されています。抵抗素子は一般的に厚さ数μmの金属(NiCr合金等)箔をエッチングで製作します。ベースは厚さが20~30μmのフェノール樹脂やポリイミド樹脂などで作られています。
また、ひずみゲージは起歪体の材質に合わせて温度補償を行っています。従ってロードセル単体のゼロ点の温度係数は、もともと少なくなっています。

起歪体
ひずみを発生させる部品(構造体)で、性能が決まってしまう重要部品のひとつです。材質や形状は様々ですが、要求される特性としては、クリープが少ない、弾性限度が高い、経年変化が少ない、加工性が良い、等々が挙げられます。一般的にはアルミニウム合金、ステンレス、などを使用しています。はかり用としては、加工性が良く安価なアルミニウム合金が使われています。防水防錆仕様が必要な場合はステンレス等が使用されます。
形状も仕様も様々ですが、高精度に力・荷重を測定するためには、はかり用途のシングルポイントタイプが適しています。
起歪体はマシニングセンター(MC)で加工するのが一般的ですが、ひずみゲージの接着にはエンドミルで加工した面粗度より、少し粗い接着面が必要なため、サンドブラスト等でひずみゲージの接着面を追加工します。こうすることでより強固で安定な接着が可能になります。

接着剤
ひずみゲージを起歪体に接着する接着剤は非常に重要で、特にクリープ、経年変化等の性能に影響します。一般的に接着剤に要求される主な特性は次のようになります。
・接着強度が温度、湿度にたいして十分あること。
・絶縁性が温度、湿度にたいして十分あること。
・硬化時の吸収率が小さいこと。
ひずみ測定分野で使われている接着剤は各種ありますが、はかり用ロードセルや工業用のロードセルの接着剤は、信頼性から熱硬化型のエポキシ系接着剤が使用されています。その他、短期的なひずみ測定、実験等では常温硬化型、溶剤蒸発型、接触硬化タイプ、フェノール系等が使用できます。
接着方法、接着(剤)厚さ、接着圧等も性能に影響する重要な要素で、接着治工具を含め各社のノウハウになっています。

防湿材
ひずみゲージ接着後に保護や防湿のため、回路基板やひずみゲージは防湿材でコーティングされています。コーティング剤で簡単なものはシリコンゴム系が思いつくのですが、シリコンゴムは吸湿し絶縁性能が低下するため、工業用には向いていません。各社独自の防湿材を使用していますが、ブチルゴム系などが使われています。また、防湿材の粘度も重要で、硬すぎると性能に影響しますので、所謂クリーム状のままでコーティングされている場合が多いと思います。

回路構成

図は前出した一般的なシングルポイントロードセルの回路構成の一例です。
Rはひずみゲージ、R1はゼロバランス調整用の抵抗、R2はゼロ点の温度影響補償用抵抗です。R3は出力電圧の温度影響補償用抵抗、R4は出力感度調整用の抵抗、R5は入力抵抗調整用の抵抗です。ただし、全てのロードセルが同じ回路構成になっているわけではありません。

入力抵抗(入力端子間抵抗)
温度補償や出力調整の影響で入力抵抗が器物ごとにバラツキます。一定範囲の入力抵抗にするためR5を挿入しバラツキを調整しています。

ゼロバランス調整
ひずみゲージの相互間の抵抗差、ゼロ点の温度補償抵抗の挿入などで、無負荷時に出力が発生します。この無負荷時の出力を一定値以内にするため、R1を挿入し調整します。図では2ヶ所に挿入されていますが、どちらか1ヶ所で調整も可能です。

ゼロ点の温度影響補償
前述したようにひずみゲージは、起歪体の材質に合わせて自己温度補償されていること、ブリッジ回路にすることで、抵抗変化が同一の場合打ち消されること、等によってゼロ点の温度影響は非常に少なくなっています。しかし製造上のバラツキ等で発生する影響を補償するため、R2を挿入し調整します。2ヶ所に挿入されていますが、どちらか1ヶ所で調整も可能です。

定格負荷時の出力調整
各補償の影響で出力感度がばらつきます。一定範囲の出力にするため、R4を挿入しバラツキを調整しています。2ヶ所に挿入されていますが、どちらか1ヶ所で調整も可能です。

出力の温度影響補償
起歪体の弾性率は温度によって変化します(アルミニウム合金は-0.07%/℃程度)。またひずみゲージのゲージ率も温度によって変化するため、負荷時の出力が温度によって変化します。入力側に温度補償抵抗R3を挿入し温度補償を行います。また、ゲージ率の変化と起歪体の弾性率変化を相殺させるひずみゲージも製作されています。

筆者は起歪体から加工し、市販のひずみゲージを接着してロードセルを製作、アナログ回路からデジタル回路まで設計して、力計を商品化したことがあります。ブリッジ回路は、ひずみゲージのみで温度補償やゼロ点、出力調整はデジタル処理で行いました。専用品であったため自由度がある設計、製作や調整の追い込みが出来ましたが、ロードセル単体で市販する目的ではなかったため、OIML R60で規定されるロードセル仕様を、すべてクリア出来たわけではありません。

市販品のロードセルは製品仕様の範囲内で保証され、C3クラス等のカタログ性能がうたわれていますが、短期的な性能や余裕のある使い方を行えば、分解能や繰返し性、直線性等大変優れた性能があり、手軽に利用できる力センサと言えます。
起歪体の歪を利用しているため、クリープや経年変化、金属疲労等は避けて通れないのですが、使い方によって手軽に力・荷重測定ができる高精度なセンサと思います。

ひずみ(ストレイン)ゲージは今から80年以上前に米国で開発されました。当初は航空機のひずみ測定に多用され発達しました。戦後、計量器用のロードセルを始め力・荷重測定用にも応用され現在に至っています。最先端の技術が軍事用に開発されたり、使用されたりするのはいつの時代でも同じようです。科学者の倫理には比べられないにしても、技術者の倫理も必要と思っています。

今回はひずみゲージ式ロードセルの内部構造を解説しました。市販されている名のあるメーカのひずみゲージ式ロードセルは、高価ではありますが大変性能が良く、誰でも使いやすい力センサになっています。力測定や荷重測定用に専用のIC等もあり、簡単に測定ができる時代になりました。秋葉原や通販で入手できますのでぜひ自作、実験されることをお勧めします。

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参考文献:
OIML R60:Metrological regulation for load cells
OIML R76-1:Non-automatic weighing instruments
Part 1: Metrological and technical requirements – Tests
JIS B 0155:工業プロセス計測制御用語及び定義
JIS B 7612-1:質量計用ロードセル-第1部:アナログロードセル
JIS B 7602:力計の校正方法及び力変換器の性能試験方法
JIS B 0192:はかり用語
JIS Z 8103:計測用語
「はかりハンドブック 第2版」:日刊工業新聞社発行
ロードセルメーカ、はかりメーカのWebサイト