こんにちは。
今回は「ひずみゲージ式ロードセル」についての第4回となります。前回取り上げる予定だった「規格等」に関する内容です。
「ロードセル」という用語は、「JIS B 0192:はかり用語」においては、
起わい(歪)体に張り付けられたひずみゲージで検出した荷重信号を質量に変換することによって質量を計測する機器。
「JIS B 7612-1:質量計用ロードセル」では、
使用場所における重力加速度及び空気浮力の影響を考慮した後に,ひずみゲージで検出した量(質量)を別の量(出力)に変換することによって質量を測定する機器。
また、「JIS B 7602:力計の校正方法及び力変換器の性能試験方法」では、「ひずみゲージ式」に限定せず、「力変換器」として、
力変換器
ひずみゲージ、圧電素子などによって力を受けた部材の弾性変位量、またはこれに比例する物理量を電気信号に変換して力の大きさを確定する機器で、指示装置を含まない。
と定義されています。
「JIS B 0192」や「JIS B 7612-1」では、ひずみゲージ式の計測原理を前提とした定義が採用されています。しかし、実際の使用現場においては、圧電式、静電容量式、光学式など、ひずみゲージ式以外の原理を用いて「力」や「質量」などを測定するセンサやモジュールも含めて、広義に「ロードセル」と呼ばれることもあります。
さらに、「JIS B 7612-1」はアナログロードセル、「JIS B 7612-2」はデジタルロードセルに関する規格であり、それぞれ異なる要件が定められています。特に「JIS B 7612-2」では、電子回路を内蔵するロードセルを対象とし、A/D変換装置を含むか否かによって分類が分かれています。
やや複雑な印象を受けるかもしれませんが、これはあくまで規格上の定義・分類にすぎず、実務においては過度に厳密な区別にこだわる必要はない場合もあります。以下、順を追って解説して行きます。
「JIS B 7612-1:2022 質量計用ロードセル―第1部:アナログロードセル」は、「OIML R60:2000, Metrological regulation for load cells」を基に制定されていますが、「OIML R60」の最新版は2021年度になっているようです。米国では「NIST Handbook 44」のなかにロードセルも含まれています。JISやOIMLの改定や追加は頻繁ではありませんが、米国のHandbook44は毎年発行されているようですので、該当する項目は確認しておくと良いでしょう。
今回は「ひずみゲージ式ロードセル」の「JIS B 7612-1:2022 質量計用ロードセル―第1部:アナログロードセル」をもとに説明して行きます。
第1回でロードセルの仕様一覧表を乗せましたが、各項目を「JIS B 7612-1:2022 質量計用ロードセル―第1部:アナログロードセル」の項目と対比すると、
用語 | 内容・意味 | 「JIS B 7612-1」の 用語(引用) |
「JIS B 7612-1」の 定義(引用) |
定格容量(荷重) (rated capacity(load)) | 設計上の仕様を保って計測し得る最大容量。定格荷重ともいう。 R.C.(rated capacity)と表現します。 |
(3.3.5) 最大容量,Emax (maximum capacity) |
最大許容誤差(3.4.8参照)を超えずに,ロードセルに負荷することができる範囲の上限。 |
精度等級 (accuracy class) |
検定目量の最大数で区別される精度分類 クラスA,B,C,D |
(3.2.1) 精度等級 (accuracy class) |
指定した限界内に誤差が収まることを示すロードセルの等級。 クラスA,B,C,D |
定格出力 (rated output) |
ロードセルへ定格荷重の負荷を加えたときの出力。印加電圧1V あたりの出力(mV/V)で表す。R.O.(rated output)と表現します。 | 定義なし | ロードセルメーカの仕様。 |
許容過負荷 (Safe overload) |
特性上,仕様を超える永久変化を生じることなしに負荷できる最大荷重。定格容量に対する%で表す。 | (3.3.15) 許容過負荷,Elim (safe load limit) |
仕様を超える荷重であって,性能特性に恒久的な変化を生じることなしに負荷できる最大荷重。 |
最大許容過負荷 (Minimum overload) |
機械的損傷をおこすことのない限界負荷、定格負荷に対する%で表す。 | 定義なし | ロードセルメーカの仕様。 |
ゼロバランス (Zero Balance) |
(無負荷出力) 無負荷時のロードセルの出力。定格出力に対する%で表す。 | 定義なし | ロードセルメーカの仕様。 |
非直線性 (Non-liniearity) |
無負荷時の出力と定格負荷時の出力を結ぶ直線に対する校正曲線との最大偏差。定格出力に対する%で表す。(荷重増加時のみ)(%R.O) | (3.4.9) 非直線性 (non-linearity) |
負荷の増加時におけるロードセル出力曲線と,測定開始点出力及び最大測定点出力を結んだ直線との差 (直線性誤差ともいう。)。 |
ヒステリシス (Hysteresis) |
負荷増加時と負荷減少時のロードセル出力の差の最大値。定格出力に対する%で表す。(%R.O) | (3.4.5) ヒステリシス誤差 (hysteresis error) |
同じ負荷に対するロードセル出力において、負荷をDminから増やすことによって得られる読みと,負荷をDmaxから減らすことによって得られる読みとの差。 |
繰返し性 (Repeatability) |
同一の負荷条件並びに同一の周囲条件において同じ荷重を繰り返し負荷したときの出力の最大差。定格出力に対する%で表す。(%R.O) | (3.4.10) 繰返し性 (repeatability) |
一定の試験条件下で,同じ荷重を同一の方法でロードセルに数回繰り返して負荷した場合に,互いに一致した計量結果をもたらす能力。 |
ゼロリターン (zero return) |
荷重を加える前のゼロ点出力と荷重を加えて取り去った後のゼロ点出力との差。(%A.L) クリープ又はクリープ回復性で表現する場合も有る。 |
同一表現ではないが、内容から (3.3.9) 最小測定量出力戻り,DR (minimum dead load output return) |
荷重の負荷の前後に測定した最小測定量におけるロードセル出力の差。 |
ゼロ点の温度影響 (Temperature effect on zero ) |
無負荷の状態で周囲温度が変化した時のゼロバランスの変化。周囲温度1℃(又は10℃)あたりの出力とし、入力換算値で表す。(%R.O./℃(or10℃)) | 同一表現ではないが、内容から (3.4.15) 最小測定量出力への温度影響 (temperature effect on minimum dead load output) |
周囲温度の変化に起因する最小測定量出力の変化。 |
出力の温度影響 (Temperature effect on output) |
周囲温度の変化に起因する定格出力変化。 周囲温度1℃(又は10℃)あたりの変化を定格出力に対する%で表す。(%R.O./℃(or10℃)) |
同一表現ではないが、内容から (3.4.16) 感度への温度影響 (temperature effect on sensitivity) |
周囲温度の変化に起因する感度変化。 |
推奨印加電圧 (Recommended Excitation voltage) |
メーカが推奨する印加電圧(V) | 定義なし | ロードセルメーカの仕様。 |
最大印加電圧 (Maximum Excitation voltage) |
ロードセルの特性を変化させることなく与えることが出来る最大の印加電圧 (V) *推奨印加電圧の最大値の場合もある。 |
定義なし | ロードセルメーカの仕様。 |
入力端子間抵抗 (Input Terminal Resistance(impedance)) |
入出力端子の負荷に何も接続されておらず、かつ無荷重の時の入力端子間の抵抗値 (Ω) | 定義なし | ロードセルメーカの仕様。 |
出力端子間抵抗 (Output Terminal Resistance(impedance)) |
入出力端子の負荷に何も接続されておらず、かつ無荷重の時の出力端子間の抵抗値 (Ω) | 定義なし | ロードセルメーカの仕様。 |
補償(使用)温度範囲 (Compensated Temperature Range) |
仕様に定められた範囲内に定格出力と零点が保つように補償されている温度範囲 (℃) | (6.5.1.1) 温度限界 −10 ℃〜40 ℃ (6.5.1.2) 特別限界温度 -クラスA:5 ℃ -クラスB:15 ℃ -クラスC,D:30 ℃ |
(6.5.1.1) 最小測定量出力への温度影響を除いて,6.5.1.2に規定していない限り, −10 ℃〜40 ℃ (6.5.1.2) 特定の使用温度限界を指定している場合、 -クラスA:5 ℃ -クラスB:15 ℃ -クラスC,D:30 ℃ |
偏心荷重エラー (Eccentric loading error) |
荷重が中心位置からズレた場所に負荷された場合の出力割合。 指定の形状で計量範囲の上限の約1/3の荷重を付加した場合で定義するか(%R.O)、ズレた距離の定格荷重に対する%で表す。(±% of rated load/cm) |
定義なし | ロードセルメーカの仕様。 |
計量プラットフォーム (Platform size) |
性能を保証する計量皿の大きさ。 | 定義なし | ロードセルメーカの仕様。 |
になります。
その他、「JIS B 7612-1:2022 質量計用ロードセル―第1部:アナログロードセル」では、要求される精度等級に応じて、ロードセルの性能および試験条件が区分されています。
精度等級は一般に、クラスA > クラスB > クラスC > クラスD の順で高くなり、一方で使用温度範囲などの環境条件に関しては、クラスC・D > クラスB > クラスAの順に緩やかになります。
実際の市場において流通している製品の多くはクラスCまたはクラスDに属し、クラスBはごく少数、クラスAに至っては一般用途向けにはほとんど流通しておらず、入手が難しい場合もあります。また、クラスAやクラスBの製品は性能要件が厳しく、コストも高くなるため市場ニーズも限られてきます。
制約や精度が限られているとはいえ、クラスCやクラスDの製品が性能的に劣っているというわけではありません。
たとえば「C3」等級(クラスC、精度1/3,000、使用温度範囲:-10℃~+40℃)の製品であれば、その範囲内で要求精度を満足できるものであり、極めて優秀な力センサであると言えるでしょう。
また、ひずみゲージ式ロードセル特有の特性である「クリープ」および「湿度誤差」にも注意が必要です。JISによる各項目の詳細は別途解説しますが、「クリープ」は、ひずみゲージ式ロードセルでは構造上、完全に避けることはできません。「湿度誤差」は記号による等級分類がなされ簡単に書くと、[NH] > [CH](または無印)> [SH] (高湿度環境に対する耐性が高い順)と表記されます。記号の内容も本文の解説の中で行います。
ひずみゲージ式ロードセルをセンサとして使用し、計量器(質量計)を構成する場合には、センサ単体の性能だけでなく、計量器全体として「JIS B 7611-2:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第2部:取引又は証明用」の法規適合性が求められます。したがって、たとえ「JIS B 7612-1」に準拠したロードセルであっても、計量器としての要件を満たすとは限らず、追加の検討および検証が必要です。
今回は以上になります。次回以降「JIS B 7612-1:2022 質量計用ロードセル―第1部:アナログロードセル」の内容を順次解説して行きます。
毎回述べていることですが、法令や規格というのは、ただ読んだだけではなかなか理解しづらいものです。具体的な製品や案件、身近な事例をもとに読み進めることで、理解しやすくなると思います。
もちろん実際に製品を設計したり、評価試験を行ったりすることが、内容をしっかりと理解する一番の近道です。機構設計や回路設計、ソフトウェアなど分野にこだわらず、ぜひ積極的にチャレンジしてみてください。
そして、理解を深めるためには、何度も繰り返し読み返して確認することをお勧めします。
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参考文献
質量計関連のJIS規格(最新版=年度は改版されている可能性があります)
JIS B 7601:1983 上皿天びん Trip balances
JIS B 7602:力計の校正方法及び力変換器の性能試験方法
JIS B 7603:2019 ホッパースケール Hopper weighers
JIS B 7604-1:2021 充填用自動はかり―第1部:計量要件及び技術要件
Automatic gravimetric filling instruments — Part 1: Metrological and technical requirements
JIS B 7604-2:2021 充填用自動はかり―第2部:試験方法
Automatic gravimetric filling instruments — Part 2: Tests
JIS B 7606-1:2019 コンベヤスケール―第1部:計量要件及び技術要件
Belt weighers — Part 1: Metrological and technical requirements
JIS B 7606-2:2019 コンベヤスケール―第2部:試験方法
Belt weighers — Part 2: Tests procedures
JIS B 7607:2021 自動捕捉式はかり Automatic catchweighing instruments
JIS B 7609:2008 分銅 Weights
JIS B 7611-1:2005 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第1部:一般計量器
Nonautomatic weighing instruments — Metrological and technical requirements and Tests — Part 1: General measuring instruments
JIS B 7611-2:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第2部:取引又は証明用
Non-automatic weighing instruments — Metrological and technical requirements and tests — Part 2: Measuring instruments used in transaction or certification
JIS B 7611-3:2015 非自動はかり―性能要件及び試験方法―第3部:分銅及びおもり―取引又は証明用
Non-automatic weighing instruments — Metrological and technical requirements and tests — Part 3: Weights and poises used in transaction or certification
JIS B 7612-1:2022 質量計用ロードセル―第1部:アナログロードセル
Load Cells for Weighing Instruments — Part 1: Analog Load Cells
JIS B 7612-2:2022 質量計用ロードセル―第2部:デジタルロードセル
Load Cells for Weighing Instruments — Part 2: Digital Load Cells
JIS B 7613:2015 家庭用はかり―一般用体重計,乳幼児用体重計及び調理用はかり
Household scales — Bathroom scales, baby scales and cooking scales
法律・政令
法律:
計量法
政省令:
計量法施行令
計量法施行規則
計量単位令
計量単位規則
特定計量器検定検査規則
基準器検査規則
OIML R60:Metrological regulation for load cells
OIML R76-1:Non-automatic weighing instruments
Part 1: Metrological and technical requirements – Tests
JIS B 0192:はかり用語
JIS Z 8103:計測用語
「はかりハンドブック 第2版」:日刊工業新聞社発行
ロードセルメーカ、はかりメーカのWebサイト