こんにちは。
今回は「差動トランス」の第2回になります。
前回(1)では差動トランス(LVDT)の概要、動作原理を説明しました。今回から構造の詳細、諸特性、測定回路、応用計測、新しい差動トランスの可能性等の内容を解説して行きます。
差動トランスの機械的、電気的特徴をまとめると、
[機械的特徴]
(1) 直線範囲が広い:±1mm~±200mm程度
(2) 耐振・耐久性に富み、疲労損耗箇所がない。
(3) 小型軽量で駆動力が小さい。コア質量:0.1g~200g、吸引力:mg~1g程度。
(4) 摩擦やヒステリシスが伴わない。
(5) コアとコイルは機械的に分離している。
[電気的特徴]
(1) 出力電圧はコアの変位に正確に比例する。
(2) 高感度である:変位1mmあたりの出力電圧変化0.1~1V。
(3) 分解能大:理論的には無限の分解能を有し、出力電圧は連続的に変化。実際にはS/N比の関係から制限される場合がある。
(4) 接続できる負荷インピーダンス範囲が広い。実用的にはOPアンプ等を利用する。
(5) 零点が安定している。条件により0.1μmが可能。
(6) 使用周波数範囲が広い。:50Hz~10kHz。実際は数kHzで使用するものが多い。
(7) 動特性測定が可能。
となります。
前回(1)でも説明しましたが、差動トランスの特徴はコアとコイル本体が機械的に分離しているため、センサを直接設置できない環境、例えば高温(油)環境にコアを配置しコイル本体は通常環境に分離して高感度の測定が出来ることです。
基本構造(構造の詳細)
3段型差動トランスの構造、構成部品は右図のようになっています。1次コイル、2次コイルx2、ボビン、外装ケース、左右の端板、コア(分離)から構成されています。更に細かく言えば各コイルは本体内部でリード線と接続され、端板から外に引き出されています。各コイルも絶縁紙や充填剤で固定されています。
[ボビン]
ボビンの材質は絶縁材料で膨張係数が少なく、耐熱性があればなお良いのでセラミック系が使われています。セラミック系のボビンは一体成型されていますが、仕上がり寸法の誤差は個々のバラツキの原因となるため、十分な検証、検査が必要です。また、大変位タイプのボビンには加工性や製作上の問題で、ベークライト等切削加工可能な材料が使われています。温度特性等はセラミック系に対して悪くなります。
3段型は中央に1次コイル(P)、左右に2次コイル(S1,S2)を配置し、1次コイル部寸法(L1)と2次コイル部寸法(L2)は、ほぼ同じ寸法で3等分されています。基本の寸法比率は等分ですが、計測範囲が広くなると、直線性や感度の関係から1次コイル部寸法を2次コイル部寸法より短くする場合があります。
また、直線性の誤差を±0.2%以下にしたい場合の計測範囲とボビン全長(L1+L2x2)の比は、1:5程度(6程度が望ましい)が必要です。つまり、計測範囲が±5mmであればボビン全長は25mm~30mm必要になります。コアの長さはボビン全長と同じか長めにします。3段型のボビンは計測範囲が±25mm程度までに使用されています。
2段型は2等分された中央に間隔をあけ、それぞれのボビンに1次コイル(P)を内側に2次コイル(S1,S2)を外側に巻きます。同じ計測範囲でも3段型に比べコアの長さが短くなり、ボビン長の2/3程度の長さになります。2段型は大型、大変位のタイプに使用されています。
[1次コイル]
使用する電圧、周波数を供給した場合、理屈的には電流が線材の電流許容値になるか、磁束が飽和を起こす直前になるよう選ぶと最高感度で使用できますが、銅損、鉄損による自己加熱の温度上昇を数℃以内に収めるために、1次電流はおのずと制限されます。更に実際の駆動は高周波で使用する場合が多いため1次電力は低く抑えられています。また、磁気回路は大半が空気のため磁気抵抗が高く、磁束は飽和しにくくなりますのでパーマロイ等適切なコア径(Φ3mm以上)を使用する限り、磁気飽和は考えなくても良くなります。
実用的な巻数は、周波数:400Hz~10kHz、1次電圧:10V以下で使用する場合は数百ターン。低周波、高1次電圧になるほど巻数は多くなりますが数千ターンになります。ただし、低周波で使用する場合、大型化したり電流が増える等のデメリットが多いので、現在は低周波ではほぼ使用されていません。
実際のコイルは、通常温度の仕様の場合はポリウレタン被膜の線径0.1mm~0.3mm前後の線材(マグネットワイヤー)が使用され、耐熱仕様にする場合にはコイル線材はポリイミド線等、リード線はジュンフロン線等が使用されています。大型タイプの場合は線径が太くなり0.6mm程度の線材も使用されています。直流抵抗は数Ω~数10Ω程度、1次インダクタンスは数mH~数10mH、1次インピーダンスは数百kΩ程度になります。1次側の駆動周波数は数kHz、駆動電圧は数Vの専用高周波発振器(回路)で駆動するのが一般的です。
[2次コイル]
高い電圧感度が要求される場合(高インピーダンス回路)には細い線を沢山巻き、電流感度が要求される場合やリード線が長くなるような場合には、巻数を少なくしてインピーダンスを下げるようにします。従って負荷インピーダンスや使用条件によって巻線の太さや巻数を選定すればよいことになります。しかしながら、実際の巻線は線径0.1mm~0.3mm前後で1000ターン以下で設計されています。また、1次電圧も数Vで駆動していたり、2次のインピーダンスが高いと誤差が増えるためインピーダンスを下げて使用します。従って巻数比も1:1から1:3程度の範囲に納まってきます。実際の回路ではOPアンプで電圧(電流)変換する場合が多いので、最近は負荷インピーダンスに気を使わなくても良くなっています。ただし、S/N比は注意しておいてください。
また、従来機種との互換性を重視する場合は旧機種の特性を正確に把握し、代替可能か検討することが重要です。1次コイルと同じように通常はポリウレタン線等を使用し、耐熱の場合はポリイミド線等が使用されています。直流抵抗は数Ω~数10Ω程度、2次インダクタンスは数mH~数10mH、2次インピーダンスは数百kΩ程度になります。
3段型で±5mmを計測する差動トランスのカタログの例では、
1次コイル部:寸法8mm、巻線Φ0.18mmx500ターン
2次コイル部:寸法8.5mm、巻線Φ0.12mmx900ターン
1次直流抵抗:14Ω、1次インピーダンス:212kΩ、1次インダクタンス:11mH
2次直流抵抗:65Ω、2次インピーダンス:420kΩ、2次インダクタンス:35mH
等の仕様になっています。
[コア]
コアに要求される電磁的特性は、
(1) 抵抗率が高い(固有抵抗が大きい)こと。(うず電流損が少ない)
(2) 飽和磁束密度が高いこと。
(3) 透磁率が高いこと。
(4) ヒステリシス損が少ないこと。
になります。材料としては純鉄、電磁軟鋼、Ni-Fe合金(パーマロイ)、フェライトなどが使用されます。
純鉄は飽和磁束密度が高く、機械加工も比較的容易ですが固有抵抗が低いため高周波での使用には向いていません。フェライトは固有抵抗が高く高周波特性に優れていますが、機械加工が難しく寸法精度が出難く、飽和磁束密度が低いため高い感度が得られない場合があります。
Ni-Fe合金(パーマロイ)は平均的な性能ですが、成分や熱処理と機械加工も容易であるため、実際に使用されているのはパーマロイが多いようです。Ni:50%、Fe:48%のパーマロイを機械加工後に熱処理を行って使用します。磁性材料は衝撃や打撃によって磁気特性が変わるため、落下による衝撃や打痕が無いように丁寧に扱う必要があります。
コアのうず電流損が多いと感度の低下や残り電圧の増加になるので注意が必要です。コアはなるべく太く(断面積を大きく)することで感度が高くなります。これは断面積にほぼ比例した有効磁束が得られ、磁束に比例して2次電圧が発生するからです。
[ケース:磁気遮蔽]
コイル外周を磁性体で包むことで機械的な保護以外に、遮蔽しない場合に比べ、磁気回路が構成され磁気抵抗が低下、1次コイルのインダクタンスも増えてQが高くなり、コアを太くした場合と類似の効果が得られます。中小型差動トランスを低周波で用いる時は、感度の向上と温度誤差、周波数誤差などの低減に役立ちます。また、磁気遮蔽を施すと有効磁路の規正に役立つばかりではなく、外部磁界の影響を減らすことができます。
しかしコアが出入りする軸方向の遮蔽は、幾何学的な理由と直線性に影響が出るため難しく、しかも軸方向の磁束分布や外乱が特性に大きな影響を与えるため、本体の取り付け、配置、実装や取扱いに注意が必要です。一般的に外装ケースの材質は磁性特性を持つSUS430、端板は非磁性のSUS304等が使われています。
いかがでしたか、今回は具体的な構造要件や設計要件を解説しました。お解りいただけましたでしょうか。次回から基本特性の解説を行います。差動トランスは単純な構造で感度も高いセンサです、変位測定ばかりではなく磁気回路を利用した応用センサとしての可能性もあります。電子回路のように部品を購入し組み合わせて出来るものではありませんが、基本を理解すれば設計製作や応用が可能なセンサと考えます。ぜひチャレンジして欲しいと思います。
ご意見、ご要望、ご質問、ご感想をお待ちしております。
参考文献:
西口:計測・制御 差動トランスとその応用 :オーム社(絶版)
西口:差動トランス その性能と利用技術について :新光電子株式会社
用語:
銅損:変圧器の巻線に電流が流れることによって巻線の抵抗成分により発生する損失。負荷電流によって、増減する。銅損の大きさは「負荷の2乗」(I2xR)に比例する。
鉄損:負荷の有り無しにかかわらず、変圧器に電圧がかかっていれば発生する損失。無負荷損とも言う。負荷の大きさにかかわらず常に一定である。
飽和磁束密度:磁性体(コア)が磁気飽和する時の磁束密度。電流を流しても(磁界の強さが大きくなっても)磁束密度が一定となる部分。
透磁率:磁界の強さと磁束密度との比。
うず電流:電磁誘導作用により導体内部に起電力が発生することで流れる電流。
うず電流損:うず電流によって発生する電力損失。ジュール熱で温度が上昇。