貨物等の連続質量計測技術

こんにちは。
今回は複数のコンベア付はかり(計量コンベア)による貨物等の連続質量計測技術の紹介です。
この技術は第3249055号の特許になっています。興味のある方は一読しておくと良いでしょう。
特許については、自社製品を作られているメーカは言わずもがなですが、製品の優位性、価値以上に技術者のモチベーションアップ、スキルアップに活用することをお勧めします。
特に近年、技術者自身で特許文面を書くことが少なくなり、弁理士に依頼する企業が大半になりました。作業効率、社内資源効率から外部(内部)の専門家に文面を依頼するのは解らなくは無いのですが、自分で書くことで技術者としての幅が広がると筆者は考えます。
特許文面は難解な表現が多く、専門家の書く文面は良くできていますが、難しい文書を書く必要はなく、簡単な表現でも納得できるものであれば立派な特許になります。常日頃から自身の専門分野の特許を読み込んで練習をしておくのも良いでしょう。
特許文献は知識、アイデア等の宝庫です、内容を理解し発想を広げることで自身の開発設計に大いに役立ち、自社の特許侵害対策にもなります。ぜひ定期的に検索し読解してください。

右の写真はメーカのWebサイトに掲載されている、2台のはかり(コンベアの下に計量センサを内蔵、写真中央下側、緑の部分)を使用して、貨物の質量と寸法(才寸)を測定する計測機です。
コンベア上を次々と移動(流れる)してくる大小さまざまな貨物を2台のはかり(以降計量コンベア)で計量します。上側に見えるゲートの部分は貨物寸法を測るセンサが内蔵され、長さ・幅・高さの寸法も同時に計測しています(右白色は制御盤)。
今回は下側の2台の計量コンベアで質量を計測する技術の話です。

単に貨物の質量を計測するなら、貨物が移動していても1台の計量コンベアで可能です。しかし1台では貨物が計量コンベアに搬入され、計量後、搬出されなければ、次の貨物を測定できません。
従って貨物と貨物の間隔を一定以上保って(間をあける)搬送する必要があり、時間当たりの処理能力(測定個数)が限られてしまいます。

搬送中の質量計測の基礎

右図の長さ「Le」の貨物2を長さ「L」の計量コンベア上で測定する場合、貨物1と貨物3は計量コンベアに乗らないように間隔「G」が必要です。
ここで測定に必要な貨物の移動距離を「S」とすると、測定できる貨物2の長さLeの範囲は「0≦Le≦L-S」となります。0cmは有りえないので機器が測定できる最小長さ「Lemin」と考えてよいでしょう。
各貨物間に必要な最小間隔GはG≧(L-Le+S)/2となり、Leが最小の時、間隔Gは最大、LeがL-Sの時最小になります。
例えばL=80cm、S=10cmとし、長さLe=60cmの貨物の場合、必要な最小間隔「G」は
G≧(80-60+10)/2=15cm、同じくLe=40cmの場合はG≧25cm、Le=10cmの場合はG≧40cmが必要になります。
つまり、計量コンベアLに対して貨物Leが短ければ短いほど貨物間隔Gは大きく(広く)なります。考えてみれば当たり前ですね。

実際は同一長さ(形状)の貨物を常に計測しているわけではなく、大小様々な貨物がランダムに搬送されてきます(同じ形状なら測る必要はない)。貨物の大きさによって搬送間隔を最小値に制御できれば理想ですが、通常は一定間隔で搬送され、測定誤差等を防ぐために計測可能な最小間隔に設定されています。
上記の例で考えてみます。計量コンベアL=80cm、S=10cm、貨物長さLe=30cmを計測する場合、貨物間隔Gは35cmになります。この条件で貨物の搬送速度30m/分の時間当たりの計量個数(処理能力)を計算すると、2772個/時になります。
しかし、長さL=40cmの計量コンベアを使用した場合、Gは10cmで良く、処理能力は4500個/時、なんと1.6倍以上に跳ね上がります。貨物寸法に合わせて計量コンベアを最適化できるとよいですね。
また、L=80cmのまま処理能力を上げるため貨物間隔を短くしてしまうと、G=25cmでは40cm未満の貨物が計測できなくなってしまいます。

連続質量計測の原理

膨大な数量の貨物を計測するのに、1台の計量コンベアだけでは多くの時間が掛かり、効率的ではありません。そこで、複数台の計量コンベアを使い、貨物間隔を最少、最適化して時間当たりの処理能力(計量個数)を最大化出来るようにした方法が「連続質量計測技術」です。

右図の計量コンベアAの長さをL1、計量コンベアBの長さをL2、AとBを足し合わせた(仮想)計量コンベアCの長さをL1+L2、測定上必要な移動距離をS、最小貨物間隔をGとします。(L1≧L2)
計量コンベアA,B,Cでそれぞれ計測できる最大貨物と最小貨物の長さを考えると、

・計量コンベアA(L1)   :最大=「L1-S」、最小=L1+S-2G
・計量コンベアB(L2)   :最大=「L2-S」、最小=L2+S-2G
・計量コンベアC(L1+L2):最大=「(L1+L2)-S」、最小=(L1+L2)+S-2G
短い計量コンベアの最大値が長い計量コンベアの最小値になれば最大効率になるので、
・L2-S=L1+S-2G → L1=L2+2(G-S)
・L1-S=(L1+L2)+S-2G → L2=2(G-S)
計量コンベアB(L2)は貨物間隔Gと測定に必要な距離Sで決まります。
ここで、S=10cm、G=30cmとすると、
計量コンベアB(L2)は、L2=2(30-10)=40cm
計量コンベアA(L1)はL1=40+2(30-10)=80cm
となります。
3種類の計量コンベアで計測できる最大貨物は110cm((80+40)-10)となり、30cmの最小貨物間隔で110cmまで計測できることになります。この場合、計量コンベアB(L2)は(最小)~30cm、計量コンベアA(L1)は30cm~70cm、計量コンベアC(L1+L2)は70cm~110cmを受け持ちます。
この関係は2台だけでなく3台以上の計量コンベアをつないでも同じことが言えますので、上記の条件の場合は40cm単位又は80cm単位で計量コンベアを増やすことで、理屈上は計測できる貨物の最大長を伸ばすことが出来ます。
貨物間隔Gと測定距離Sで計量コンベアの長さが決まりますが、Sは機器の性能に依存して決まってしまうので、実質Gの値によって計量コンベアの長さが決まることになります。

計量コンベア長さを計算する

上記では貨物間隔Gを固定した条件のもとに説明しましたが、例えば120cmの貨物を測りたい場合、理屈上は40cmの計量コンベアを追加すれば可能ですが、3台になると機器が大型(160cm)になる、コストアップになる等実用的ではありません。
実際の設計では2台の組合せで、貨物の寸法範囲も広く、かつ大小異なる貨物を全数正確に計測することが要求されます。
貨物の測定範囲Lemin~Lemax、最小貨物間隔G、機器本体の測定距離Sが決まり、L1とL2を設計しようとした場合(L1≧L2)、
1. 最大計量コンベア長(L1+L2):(L1+L2)=Lemax+S
2. 計量コンベアA(L1):L1=(L1+L2)-2(G-S)
3. 計量コンベアB(L2):L2=L1-2(G-S)
4. ここでGmin≧(Lx-Lemin+S)/2も満足させる。
の計算を行いL1,L2を求めます。が、2台では理想条件にならない場合が多いので、相互のパラメータも調整します。
例題:Lemax=120cm,Lemin=20cm,S=10cm,G=30cmとした場合、
(L1+L2)=120+10=130cm、 G=(130-80+10)/2=30cm
L1=130-2(30-10)=90cm、 G=(90-40+10)/2=30cm
L2=90-2(30-10)=50cm、 G=(50-20+10)/2=20cm
(L1+L2)=140cm←✕
となりますが、(L1+L2)の部分が成立しません。L1,L2とGを再計算しそれぞれが仕様に合う組み合わせを求めますが、この条件を満足するコンベア長は無く、
・L1=85cm,L2=45cmの時、(L1+L2)のG=32.5cm、L1のG=30cm、L2:G=17.5cm
となり、貨物間隔Gは最大の32.5cmになります。
最初のG=30cmが絶対条件であれば、前述しましたように40cm+40cm+80cmを3台組み合わせることになりますが、実際は機器メーカが標準的にL1=85cm,L2=45cmで計量コンベアを生産している場合は、貨物間隔Gを32.5cmの仕様に変更して使用すること多いようです。
各計量コンベアの受け持つ貨物長Leは、L2=20cm~35cm、L1=35cm~75cm、L1+L2=75cm~120cmとなります。

ここで、L2=2(G-S)で40cmになるのでは?と思われたかもしれません。L2=40cmにするとL1は90cmで、Gが35cmになり、上記の条件より貨物間隔が広くなってしまいます。計測する貨物の種類にもよりますが、小型から中型の貨物数が多い場合はL1,L2の貨物間隔を優先するとよいでしょう。

計量コンベア長さを固定する

現実的な実機では計量コンベアを毎回設計するより、L1,L2の長さを固定し、効率の良いGを計算して、決定したG(以上)の間隔で貨物を搬送する方法がとられています。
例題:L1=105cm,L2=55cm,S=10,Leの範囲を20cm~150cmとするときのGは?
L2のLeの範囲:20cm~45cm → G=(55-20+10)/2=22.5cm
L1のLeの範囲:45cm~95cm → G=(105-45+10)/2=37.5cm
(L1+L2)のLeの範囲:95cm~150cm → G=(160-95+10)/2=37.5cm
上記の結果から、最も間隔が長いG=37.5cmでLe=20cm~150cmすべての貨物を搬送すれば、各計量コンベアで計測出来ることがわかります。(1cm単位で計算するとGの最小値が有るかも)
写真の計測機はメーカのWebによれば、160m/分→≒2.67m/秒の高速搬送速度で長さ150cm、質量50kgまでの貨物を40cm間隔で計測できるようです。処理能力も9600個/時(60cm)と高性能です。

今までの説明では貨物の長さが何cmの場合とか、計量コンベアが測れる貨物の長さが何cm~何cmと表現してきました。つまり、貨物の長さを知る必要があるということです。また、貨物が各計量コンベアのどの位置にあるのかも知っておく必要があります。
別装置で計測し結果だけを本装置に入力しても良いのですが、冒頭写真の計測機は貨物長さと位置を同時に計測するセンサと機能が内蔵されています。長さだけでなく高さや幅も同時に計測している優れものですが、寸法計測は原理的に単純な手法(センサアレイ)を用いています。
最近はカメラと画像処理で高速物体の寸法計測が出来るようになっていますので、将来的には活用できるかもしれません。
寸法計測は機会があれば別回で紹介します。

いかがでしたか?解ってしまえば簡単な理屈ですね。特許になるかどうかは別として、何事も直面する課題にどう取り組み解決して行くかが重要です。「必要は発明の母」と言うようにいずれ解決策は生まれるものです。技術者は本質を見極め地道に取組んで欲しいと思います。
写真の計測機は宅配便や通販等の貨物を扱う物流現場に導入され活用されています。複数台の計量コンベアで連続質量計測するこの技術は、現在特許の権利は消滅していますが他社にライセンス供与していた時期に、毎年高額なライセンス料を得ていました。
冒頭でも書きましたように、特許は経営戦略、製品戦略(防御含む)、商品価値だけでなく技術者のスキルアップ、人材教育等々にも大変有効です。大いに活用して欲しいと思います。

ご意見ご要望をお待ちしております。

参考文献:
特許:第3249055号「多連秤装置」
新光電子株式会社ホームページ:http://www.vibra.co.jp