タイプ’m’のデジタルロードセル

こんにちは。
今回は従来にない樹脂充填防爆構造(以降タイプ’m’)のひずみゲージ式ロードセルをWEBで見つけましたので少し調べてみました。「防爆電気機器」シリーズでは防爆の全体像から法規制や本質安全防爆構造を中心に解説する予定ですが、新しいセンサが出てきましたので「番外編」として追加しました。(「防爆電気機器」(1)(2)参照)
筆者はタイプ’m’の機器は設計したことが無いので詳細やノウハウは今後調べて行きますが、今回はメーカから公表されている仕様等をもとに考察したいと思います。

防爆構造のひずみゲージ式ロードセルは従来から耐圧防爆構造(‘d’)や本質安全防爆構造(‘i’)の製品が販売されています。耐圧防爆構造(‘d’)は構造も大変ですしコストも高くなり、性能維持にも苦労していると思います。本質安全防爆構造(‘i’)は比較的簡単なのですが、センサ単体ではケーブルの影響や安全保持回路、外乱の影響等によって性能維持が難しく実用的とは言えませんでした。
今回のタイプ’m’のロードセルはデジタルロードセルになっていますので、ケーブルの影響もなく外乱にも強くなっていると思います。また、メーカの資料によればタイプ’m’を実現するために樹脂の変更や安全保持回路の追加等の工夫をしているようです。

タイプ’m’のひずみゲージ式ロードセル

メーカのWebサイトを見てみましょう、

防爆等級:Ex mb ⅡC T6 Gb
1/6000の計測が可能(非自動はかり)
インターフェース:RS485通信
労検番号:「DEK18.0101X」
「X」が付いていますので何らかの条件が有るようです。またDEKRA Certification B.V.で認証取得しています。世界初で、6000目量の検定品(非自動はかり)を謳っており、指示計(+電源)は別型式の耐圧防爆指示計(電源含)を使用するようです。

更にIECExのCertificateを見てみると、
防爆等級(IECEx):Ex tb ⅢC T85℃ Db (t:粉じん防爆構造)
Certificate №:IECEx DEX12.0002X
対応規格:IEC60079-0:2011,IEC60079-18:2017,IEC60079-31:2013
電源:8Vdc、30mA
温度:-10℃~+40℃
等が追加で読み取れます。IECExでは粉じん防爆構造(t)も同時に取得しています。国内ではまだ(?)粉じん防爆は取得していないようです(申請中かも?)。台はかりとしての製品仕様やアプリケーション等はメーカのホームページを参照してください。

防爆構造に特化すると筆者の注目は「ⅡC」の「水素」に対応していることです。(ⅡC T6はすべてのガス蒸気等級に対応しているので水素だけではありませんが)
IECExのCertificateの履歴を見ると、2012年に「Ex mb ⅡB T5 Gb」で最初に取得し、2016年に「Ex mb ⅡC T6 Gb」にパーションアップ、と同時に「Ex tb ⅢC T85℃ Db」の粉じん防爆も取得しています。
参考に樹脂充填防爆の規格を下記しておきます。
国内:樹脂充填防爆構造 ‘m’:JNIOSH TR-46-7:2018
IECEx:IEC60079-18 Part-18:Equipment protection by encapsulation “m”
国内:容器による粉じん防爆構造 ‘t’:JNIOSH TR-46-9:2018
IECEx:IEC60079-31 Part-31: Equipment dust ignition protection by enclosure ‘t’

筆者が本質安全防爆構造「iaⅡC」水素対応の計量器の開発にかかわった2013年頃、その前から「水素社会」の国策プロジェクトが進行しており、ほどなく技術的な開発は終了し実用化のインフラ整備が進むはずでした。しかし尻つぼみの状態となって、水素は代替エネルギーのひとつとして終わるようにも思っていました。ところが最近になって脱炭素社会で水素エネルギーも再注目され始めていますので、水素に対応したこのメーカーの計量器はタイムリーな製品と言えるでしょう。

従来、国内ではアナログロードセル式、デジタルロードセル式、音叉式も大半の防爆計量器が「ⅡB」の対応でした。「ⅡC」を実現する技術的ハードルの高さや必要とする市場が少なかったためと思いますが、水素社会が一般的になれば計量器も水素対応の防爆構造を要求されてくると思いますし、メーカとして用意しておく必要が出てくるでしょう。筆者の前職メーカーでは「ⅡC」対応製品は限定用途向けでしたが、これからの製品開発に期待しましょう。

タイプ’m’の要求事項

タイプ’m’の要求事項はそれなりに多く、保護レベルma,mb,mcによって要求レベルも違います。ma>mb>mcの順で構造要求が厳しくなります。ひずみゲージ式ロードセルで問題なるのは、ひずみゲージと起歪体(金属)の絶縁距離でタイプ’m’の「固体絶縁物離隔距離」は「0.1mm」以上とし、かつ耐電圧試験(条件で変わるが最低500Vrms)に合格する必要があります。
固体絶縁物離隔距離はひずみゲージを起歪体に接着する接着剤の厚みに相当し、一般的なロードセルでは0.03mm以下で製作されています。この厚みが薄ければ薄いほど起歪体のひずみを精度よくゲージで検出できるわけですが、接着剤自身も性能に影響するためロードセルメーカにとってはノウハウのひとつになっています。

今回のロードセルは接着剤を一般品から変えているようですが、0.1mmの厚さでは性能維持が難しいと思われますので、離隔距離は0.1mm(規格値)以下と推測しています。そのため絶縁破壊から起こる温度上昇を抑えるために「安全保持回路」を追加しているようです。

メーカーの資料から、安全保持回路はダイオードと電流制限抵抗で構成され、絶縁破壊時に生じる電流を制限することで発生する発熱量が規格値以内になるように設計されているようです。
安全保持回路を挿入してもロードセルの性能が維持できるのは、デジタルロードセルであればこそ可能になったと思います。性能(1/6000)を維持し防爆規格をクリア出来ることは大変すばらしい技術と言えます。
その他規格に対応したカスタム設計があるかもしれませんが、文字情報だけでは解りずらく、現物と規格を比べてみればもう少し情報が得られるかもしれません。

指示計は耐圧防爆?

気になる点は、公開されている資料だけから推測すると、このロードセルを使用する場合の指示計や電源がメーカーの耐圧防爆指示計しかないように思われることです。問い合わせれば公開してくれるのかもしれませんが、エンジニアリングメーカーやユーザーがシステムを組む場合に、製造メーカーの指示計しか使えないのであれば疑問が残ります。製造メーカーとしては単体販売は想定していないのかもしれませんが、デジタルセンサでもあり一般(非防爆)のロードセル同様に使えるようになることを希望したいですね。防爆としてアプリケーションを考えるのは当然ですが、ユーザーが用意した指示計やシステムが使えないのであれば至極残念です。
しかも、カタログだけ見ると接続される耐圧防爆指示計は「Ex d ⅡB T4」で「ⅡC」の水素に対応できていません。いずれ水素対応の指示計が発売されるのかもしれませんし、すでに水素対応品があり筆者が見つけられなかったのかもしれませんが、資料からは読み取れませんでした。
大変優れたセンサを開発し市場投入されていますので更なる製品展開を期待したいと思います。また、ユーザが「ⅡC」対応の指示計を用意して使えるようにアプリケーションを展開して欲しいと思います。

国内防爆認証機関

「防爆電気機器」の連載の中でも説明する予定でしたが、現在国内の労検番号を発行できる認証機関は、TIIS以外に4機関有ります。以前はTIISのみの時代がありましたが規制緩和やIECExの国際化に伴い増えています。海外の3機関は元々国際規格に対応していて、海外・国内とも認証が可能なため利用者が増えています。夫々にメリット、デメリットがありますので各認証機関と十分打ち合わせて利用してください。参考に認証機関を下記しておきます。

公益社団法人産業安全技術協会:https://www.tiis.or.jp/
エヌ・シー・エス株式会社:https://ncs-ex-web.wixsite.com/home
Eurofins E&E CML Limited: https://www.cmlex.com/
CSA GROUP TESTING UK LIMITED:https://www.csagroupuk.org/services/ex-product-certification-approvals/
DEKRA Certification B.V.:https://www.dekra.co.jp/ja/explosion-protection/

筆者は前職でTIISとDEKRAを利用していましたが、DEKRAが国内認証機関に指定されてからはATEX/IECExと国内がともに認証できますので利用しやすいと思います。しかも技術基準はIECExが先行するためIECExの技術基準に合わせておけば、国内だけでなく世界に展開が可能です。ただし問題は認証費用です。防爆検定のみを考えれば、TIIS費用の10倍以上かかる可能性もありますので十分検討・吟味も必要です。
大きなメリットは、例えばDEKRAの場合多少内容が不十分でも、致命的な不具合が無ければ時間(期間)と費用はアップしますが、合格まで設計変更を含めてサポートしてもらえることです。また、事前審査(有償)で問題点を洗い出すこともできます。TIISのメリットは不具合が無ければ一定の期間で定額(安価)の申請費用で済むことです。
国内向けのみで、かつ技術要件をクリアできているのであれば、TIISが圧倒的に安価なので利用をお勧めします。海外展開を含めて考えるならかなり高額にはなりますが、国内・海外とも認証可能な海外の機関をお勧めします。

いずれにしろ最も重要なのは、
・自社の製品戦略・仕様を国内、世界展開を含めて明確する。
・防爆規格、技術基準を理解、把握する。(国内、海外)
・製品戦略を考えて防爆構造を決める。
・環境に応じて変化することを厭わない。
ことです。

今回は樹脂充填防爆構造(タイプ’m’)のロードセルについて番外編として解説しました。連載中の「防爆電気機器」では引き続き本質安全防爆構造(i)を中心に技術基準、法規制、工場認証、設計手法等の解説を行います。タイプ’m’についても新しい情報が入手できましたら順次追加して行きます。

ご意見、ご要望、ご質問、ご感想をお待ちしております。

技術的なアドバイス、コンサルティング及び技術開発、製品開発のお手伝いを行います。
ご要望があれば「お問い合わせ」からご連絡ください。

参考文献
国内:総則:JNIOSH TR-46-1:2015
IECEx:IEC60079-0 Part-0:Equipment – General requirements
国内:樹脂充填防爆構造 ‘m’:JNIOSH TR-46-7:2018
IECEx:IEC60079-18 Part-18:Equipment protection by encapsulation “m”
国内:容器による粉じん防爆構造 ‘t’:JNIOSH TR-46-9:2018
IECEx:IEC60079-31 Part-31: Equipment dust ignition protection by enclosure ‘t’
ユーザーのための工場防爆設備ガイド:JNIOSH-TR-NO.44
「ISO/IEC80079-34」:Explosive atmospheres — Part 34: Application of quality management systems for Ex Product manufacture
「LB-XD-EXM樹脂充填防爆型デジタルロードセル」:株式会社クボタ 計測と制御第53巻第11号2014年11月号
株式会社クボタ 樹脂充填防爆構造のホームページ:
https://scale.kubota.co.jp/products/%e6%a8%b9%e8%84%82%e5%85%85%e5%a1%ab%e9%98%b2%e7%88%86%e6%a7%8b%e9%80%a0%e5%8f%b0%e9%83%a8-exm.html#2
IECEx Certificate: https://www.iecex-certs.com/#/deliverables/CERT/12312/view

国内向け防爆電気機器の認証機関(再掲)
公益社団法人産業安全技術協会:https://www.tiis.or.jp/
エヌ・シー・エス株式会社:https://ncs-ex-web.wixsite.com/home
Eurofins E&E CML Limited: https://www.cmlex.com/
CSA GROUP TESTING UK LIMITED:https://www.csagroupuk.org/services/ex-product-certification-approvals/
DEKRA Certification B.V.:https://www.dekra.co.jp/ja/explosion-protection/